溺愛王子と秘密の同居

「ひゃ……」

 思わず小さな声が出る。
 頬にふれた指がやさしくて、余計にどきどきしてしまう。

「そんな顔されたら、我慢できなくなる」

「え?」

 聞き返した次の瞬間だった。

 るいがふっと身をかがめて、わたしのほっぺにちゅっと軽く口づけた。

「……っ!?」

 思考が真っ白になる。

 え。
 いま。
 なにされたの。

「る、るい……!?」

 顔が一気に熱くなる。
 反射でほっぺを押さえると、るいは少し照れたみたいに笑った。

「お詫び、もらっちゃった」

「も、もらっちゃったって……!」

「嫌だった?」

 そう聞かれて、言葉につまる。
 嫌というより、びっくりしすぎて何も考えられない。

「いや、っていうか、その、急すぎて……!」

「うん。びっくりした顔もかわいい」

「かわいいって言わないで……!」

 もう無理。
 顔が熱すぎて倒れそう。

 そのとき。

「……何してんの」

 背筋がひやっとするほど低い声が、すぐ後ろから落ちた。

 はっとして振り返ると、廊下の少し先に玲央が立っていた。

 空気が一瞬で変わる。

「玲央くん」

 るいが名前を呼ぶ。
 でもその声も、いつもの明るさより少しだけ静かだ。

 玲央の視線はまっすぐわたしの頬に向いていた。
 そこにキスされたことを思い出して、また熱がぶわっと上がる。

「りん」

「は、はい……」

「こっち来い」

「え……」

 低い声。
 逆らえない空気に、足がすくむ。

 るいはわたしの反応を見て、少しだけ寂しそうに笑った。

「……やっぱり、玲央くんのほうに行くんだ」

「ち、違……」

 違わないかもしれない。
 だって、玲央の声を聞いた瞬間、胸がどきっとしたから。

 そんな自分に戸惑っていると、玲央が一歩近づいた。

「るい」

「なに?」

「それ以上、こいつ困らせんな」

「困らせたくてしたわけじゃないよ」

 るいの笑顔はやわらかいまま。
 でもその奥に、負けたくないって気持ちが見えた気がした。