悲恋の大空 同級生編

[神の声]
 『罰の間へようこそ』



 どこまでも白い光の世界で、冷厳(れいげん)な声が響き渡る。



[如月 凛]
 「さぁ、罰を受けるのです」



 ……。


 ──【嫉束界魔ルート】へ突入。



[朝蔵 大空]
 「私と、友達になって下さい」


[嫉束 界魔]
 「え……」



 嫉束くんは困った表情で、言葉に詰まらせているようだった。


 やばい。



[朝蔵 大空]
 「あわわ……」



 嫉束くんが黙っちゃってる、どーしよ!?



[アリリオ]
 『あちゃー、ここは一旦引こう!』



 そ、そうだね!



[アリリオ]
 『まずはこの場から去るんだ!』



 うん!



[朝蔵 大空]
 「忘れて下さい!」



 私は嫉束くんより先に、保健室を後にした。



[嫉束 界魔]
 「面白い子だな」



 ……。



 学校から帰って来て、自宅のリビングにやって来た。


 私の家も、原作通り? 忠実に再現されている。



[朝蔵 葵(あおい)]
 「〜♪」


[朝蔵 真昼(まひる)]
 「……」



 真昼と、お母さんがいる…………お兄ちゃんは?



[朝蔵 大空]
 「ねぇ、お兄ちゃんは?」



 ソファに座っていた真昼の横に寄り掛かり、私は真昼にそう尋ねる。



[朝蔵 真昼]
 「は? 千にぃは、仕事でいないでしょ。 馬鹿なの??」



 辛辣っ!!



[アリリオ]
 『あ〜。 朝蔵(あさくら)千夜(せんや)は、今回のルートのシナリオには必要無いから、登場しないよ?』



 えっ!!?


 お兄ちゃん存在消されちゃった?!



[アリリオ]
 『ぁーん……厳密には、存在してないわけじゃなくて。 自分から会いに行くか、フラグを立てないと登場しないってこと。 この世界のどこかには生きてるから、安心して〜』



 良かった……。



[アリリオ]
 『ごめん。 大事な話したいから、ちょっと君の部屋まで来てくれる?』



 ?……分かった。


 私は、リビングから自室へと移動してくる。



[朝蔵 大空]
 「来たよ?」


[アリリオ]
 『ありがとう! そしたら、部屋の鏡を見てみて!』


[朝蔵 大空]
 「鏡……?」



 私は部屋に置いてあるドレッサーに、視線を移す。



[朝蔵 大空]
 「うわっ!?」



 私は、鏡の前へと駆け寄った。



[アリリオ]
 『見えた?』



 鏡の中に、アリリオくんがいる……。



[アリリオ]
 『うん! やっぱりお互いの顔が見えると、話しやすいね!』


[朝蔵 大空]
 「そうかも」


[アリリオ]
 『えっと。 ここまでやって来て、何か質問とか、気になってる事とかある?』


[朝蔵 大空]
 「ある」


[アリリオ]
 『なぁに?』



 私が今、気になってることは……。



[朝蔵 大空]
 「私がここにいる間、私が元居た世界はどうなってるの?」


[アリリオ]
 『現実世界のことだね。 君がそっち……つまりゲームの中にいる間は、現実の時間は少しずつしか進まない仕様になっているんだ!』


[朝蔵 大空]
 「へぇ……」


[アリリオ]
 『具体的に言えば、そっちの世界の一日は、現実だと1分にも満たないことになるよ』


[朝蔵 大空]
 「そ、そんなに?!」



 つまりここに居れば、いくらでもゲームやり放題……ゴクリ。


 それは、凄く魅力的だけど。



[アリリオ]
 『分かったかな? 他には何か質問ある?』


[朝蔵 大空]
 「それなら私一度、現実世界に戻りたいんだけど?」


[アリリオ]
 『ごめん! それは出来ないんだ』



 アリリオくんが、申し訳無さそうな顔でそう告げる。



[朝蔵 大空]
 「え?」


[アリリオ]
 『一度ゲームの世界に入ると……そのゲームを《《全クリ》》するまで、出て来られない仕様になっているからね』


[朝蔵 大空]
 「はっ!?」



 そんなの聞いてない!



[アリリオ]
 『だって、言ったら協力してくれなくなっちゃうでしょ?』


[朝蔵 大空]
 「それでも言ってほしかった!!」





 ガチャ。





[朝蔵 大空]
 「!?」



 突然部屋のドアを開けられ、びっくりして振り返る。



[朝蔵 真昼]
 「うるさい、勉強中なんだけど」


[朝蔵 大空]
 「ご、ごめん……静かにするね」



 私がそう言うと、真昼は自分の部屋に帰って行った。



[朝蔵 大空]
 「あ……」



 鏡のほうを向き直すと、アリリオくんの姿は既に無かった。


 しーんと静まり返る、私の部屋。



[朝蔵 大空]
 「まだ聞きたいことあったのに」



 私、本当に、本当に……『全クリ』するまで、ここから出られないの?


 なんてこった。



 ……。


 翌朝、学校にて。



[笹妬(ささやき) 吉鬼(よしき)]
 「へぇ、そんなことがあったんだ」


[嫉束 界魔]
 「どうしたら良いと思う?」


[笹妬 吉鬼]
 「どうしたらって……そんなの自分で決めろよ」



 ふたりの美形な少年が、学校の校舎裏で腰を下ろして話をしていた。



[嫉束 界魔]
 「……『友達になって下さい』って言葉、そのままの意味で受け取っちゃって、良いのかな?」


[笹妬 吉鬼]
 「さぁ? その子、お前に気があんじゃね」



 笹妬がそう言って、冗談っぽく笑う。



[嫉束 界魔]
 「やっぱ、そうだよね」



 嫉束は、ため息を吐きながら俯く。



[笹妬 吉鬼]
 「お前モテすぎ」


[嫉束 界魔]
 「でも不思議なんだよね」


[笹妬 吉鬼]
 「何が?」


[嫉束 界魔]
 「その子、話す時 " 遠慮 " が無いんだ。 まるで前から知り合いだったような……だから、凄く不思議」



 そう言って嫉束は、神妙な顔で遠くを眺める。



[笹妬 吉鬼]
 「ほう?」


[嫉束 界魔]
 「あんな子初めて。 だから…………」



 ……。



[朝蔵 大空]
 「……」



 おーい、生きてる?


 ねぇ!!



[朝蔵 大空]
 「はぁ……」



 昨日から頭の中で呼び掛けてみても、アリリオくんは返事をしてくれなくなってしまった。


 なんかムカつく……向こうはこっちのこと見えてるくせに、こっちから向こうに『連絡』する手段が無いなんて。


 ひとりこの世界に置き去りにされても、不安なんですけどー。



[永瀬 里沙]
 「おっ、真剣な顔してどーした〜?」


[朝蔵 大空]
 「な、なんでも無いよ」


[永瀬 里沙]
 「もしかして、恋煩らい?」



 里沙ちゃんがニヤニヤとした表情で、そう聞いてきた。



[朝蔵 大空]
 「恋煩い?!」


[永瀬 里沙]
 「ねぇ、好きな人出来たら絶対言ってよ? 約束ね!!」


[朝蔵 大空]
 「う、うん」



 好きな人とか別にいないけど……あ、でも『攻略対象』ならいるなぁ。


 攻略って言っても、私に出来るのかな……?


 ── だって私、今まで…… " 誰とも付き合ったこと無いのに "。



[朝蔵 大空]
 「トイレ行ってくる」


[永瀬 里沙]
 「うん」



 私はひとり廊下に出て、トイレへと向かう。



[朝蔵 大空]
 「ふぅ……」



 用が済み、手洗い場で手を洗っている時だった。



[SFC女子A]
 「あんたさぁ」


[朝蔵 大空]
 「!?」


 私、話し掛けられた?



[モブ女子A]
 「はい……」


[SFC女子A]
 「会員の人間じゃないよね? なに嫉束くんと親しげに話してるの?」



 私じゃなかった。



[SFC女子B]
 「嫉束くんとお話したいなら、ファンクラブに入って頂戴」


[SFC女子A]
 「月額、《《3万円》》でね」



 高っ!


 月3万とか、高校生がすぐ出せる値段じゃないよ!!



[モブA]
 「すみません、払えません……」


[SFC女子A]
 「だったら、うちらの嫉束くんに気安く話し掛けないでくれる?」


[モブA]
 「分かりました、もう嫉束くんとは話しません」



 淡々と答えてSFCに従う、そんな女子生徒に同情してしまうけど。


 逆らったら面倒臭いし、怖いからそうするしか無いんだろうな。



[朝蔵 大空]
 「……」



 私は見て見ぬふりをして、女子トイレを後にした。


 嫌なもの見ちゃったな……。


 ── そして、昼休み。



[永瀬 里沙]
 「昼休みだー! 大空、学食行くわよ!」


[朝蔵 大空]
 「うん」



 私と里沙ちゃんが、学食に向かおうとしたその時。



[朝蔵 大空]
 「あっ、狂沢くーん」


[狂沢 蛯斗]
 「……」


[永瀬 里沙]
 「……?」



 前方を歩いている、狂沢くんの姿が見えたので、私は声を掛けてみた。



[朝蔵 大空]
 「あれ? 狂沢くん、司くんは一緒じゃないの?」


[狂沢 蛯斗]
 「はて? " 司くん " とは、誰のことでしょう?」


[朝蔵 大空]
 「えっ」



 まさか!?


 このルートだと、【巣桜司】って存在しないの??



[永瀬 里沙]
 「あれれ? へー! 大空と狂沢くんって、仲良かったんだ〜?」


[狂沢 蛯斗]
 「いえ、お話するのは《《初めて》》です」


[朝蔵 大空]
 「おっと……」



 あ〜やばいやばい、時系列が訳分かんないことになってる!


 ちょっと一旦、整理する時間が欲しい〜。



[アリリオ]
 『一時停止(ポーズ)機能だね! 心の中で、【ポーズ】! と唱えるんだ!!』



 ポーズ……!!



[狂沢 蛯斗]
 「……」


[永瀬 里沙]
 「……」



 時間が止まった?



[朝蔵 大空]
 「って、アリリオくん! なんで今朝は、返事してくれなかったのー?!」


[アリリオ]
 『え? んー、なんかさ! 僕がいちいち間に入ると、世界観壊れちゃうって言うかさ? だってこれ一応、ファンタジー無しの【現代学園もの】だし〜』


[朝蔵 大空]
 「アリリオくん、私聞きたいことがあって……」


[アリリオ]
 「あ、《《時間切れ》》」


[朝蔵 大空]
 「え?」



 ── 再生。



[永瀬 里沙]
 「え、そうなの? 大空、どう言うこと?」


[朝蔵 大空]
 「……え、あ、何が?」


[永瀬 里沙]
 「ん? だから、大空と狂沢くんってどう言う関係?」



 どう言う関係って……。


 これってつまり、まだ狂沢くんと仲良くなる前に、私が馴れ馴れしく話し掛けちゃったってことだよね??


 里沙ちゃんは、そこに疑問を感じているんだ!



[朝蔵 大空]
 「あ……えと」



 もし私が、プレイヤーとしてゲームをプレイしてるって、里沙ちゃん達にバレたらどうなるんだろ?


 それをさっき、アリリオくんに聞きたかったのに。


 私は、狂沢くんが首に掛けているカメラに目を向ける。



[朝蔵 大空]
 「じ、実は私! ちょっとだけ、カメラに興味があって……」


[永瀬 里沙]
 「えー、そうな……」


[狂沢 蛯斗]
 「そうだったんですね!!!」





 ホワワーン。





 ── 対象、【狂沢蛯斗】の好感度が40%に上昇。


 ぎゃっ!! 意図せず、狂沢くんの好感度が上がってしまった!?



[狂沢 蛯斗]
 「でしたら今日の放課後、中庭でお待ちしております!!」



 今更、『冗談でした』とは言えない空気に。


 狂沢くんはスキップをして、食堂まで向かって行った。


 ……。



[永瀬 里沙]
 「ねぇ、放課後約束してるんでしょ?」


[朝蔵 大空]
 「うん……」



 帰りのホームルームが終わっても、私は自分の席から動けずにいた。


 ここで本当に、狂沢くんの元へ行くべき?


 でも今って、【嫉束界魔ルート】なんだよね?


 狂沢くんと嫉束くんって、関係無くない?



[朝蔵 大空]
 「よし……里沙ちゃん、じゃあね!」


[永瀬 里沙]
 「うん、じゃあね!」



 まぁ、狂沢くん待たせてるし、とりあえず行くか。


 私は教室を出て、中庭へ向かう。



[狂沢 蛯斗]
 「お待ちしておりました!」





 ホワワーン。





 ── 狂沢蛯斗の好感度が50%に上昇。


 いや、やっぱりおかしいよ。


 今は嫉束くんルートなんだから、そしてカメラなんかには一ミリも興味が無い。


 やっぱり気が変わったとか言って、断ろう。



[朝蔵 大空]
 「あの、狂沢くん……さっきはああ言ったけど、やっぱり……」


[狂沢 蛯斗]
 「大空さん、ボクずっと寂しかったんです。 だから、貴女が写真部に入りたいと言ってくれた時、心から嬉しかった」



 私、『写真部に入りたい』なんて言ったっけ??


 狂沢くんが私に詰め寄り、私の両手を掴んで来る。



[朝蔵 大空]
 「ちょっ……」





 ホワワーン。





 ── 狂沢蛯斗の好感度が70%に上昇。


 やばいやばい、なんもしてないのに狂沢くんの好感度が、どんどん上がっていくんですけど、怖〜。



[狂沢 蛯斗]
 「これからふたりで、一生懸命、部活動に励んでいきましょうね!」



 助けて!



[狂沢 蛯斗]
 「いてっ……」



 その時、横から《《何か》》飛んで来て、狂沢くんの頭に直撃した。


 地面にその《《何か》》が、コロンと転がる。



[朝蔵 大空]
 「テニスボール?」





 「再び始まる日」おわり……。