元カレ弁護士の恋事情

「ああ……。えーっと……いや、それはいいよ」
「私の気がおさまりません」

 ここは譲れない。
 久我さんにこれ以上迷惑をかけたくないし、何より自分のせいで発生した費用なのだ。払わないままでは、どうにも落ち着かない。すると、久我さんはボソッと呟いた。

「……本当はタクシーじゃないんだけど」
「えっ?」

 よく聞こえなかった。
 久我さんは少し考えるように私を見て、ふっと口元を緩めた。

「まあ、いいか。じゃあ……こうしよう」

 私に顔を寄せてきて、こっそりと耳元で囁かれる。

「今度の休みの日、デートしよう?」
「……へっ?」

 変な声が出た。……今、なんて?
 デート? 聞き間違いだろうか?
 近すぎる距離に、心臓がどくんと大きく跳ねる。
 久我さんは、そんな私の反応を楽しむように口の端を上げて目を細めた。

「それでチャラってことで」

 待って、待って待って。久我さんって、そんな駆け引きするようなタイプだった?
 この十二年で、彼も変わってしまったということ?
 それに、盗作騒ぎでデートなんて気分じゃないのに。
 でも……嫌じゃなかった。
 どうして私は今、こんなにも嬉しくなっているんだろう……?