元カレ弁護士の恋事情

 今でも覚えている。あの日、誠治くんはとても思い詰めた顔をしていた。
「受験に集中したいんだ。だから──」
 誠治くんが高校三年生、私が二年生の時、桜の散り始める季節だった。
 風が吹き、桜吹雪が舞う。まるで、私と誠治くんの間を隔てるように。
 引き留めたかった。けれど、弁護士を目指している彼の邪魔をしてはいけない。
 そう思うと、縋ることなんてできなかった。
「……わかった」
 泣きそうになるのを堪えて、私は頷いた。

 しばらくは未練がましく連絡先だけは残していた。でも、向こうからの連絡もなかった。
 卒業してからしばらくして──彼が海外へ留学したと風の噂で聞いた。
 私にはなんの相談もない。ううん、もう別れたのだから、それはいい。でも、人づてに聞いたという事実に、私の中で何かが崩れたような気がして。私は彼への想いを断ち切るように、連絡先を削除した。
 期待していたわけじゃないけれど、ずっと彼からの連絡もなかった。だから、もう終わったと思っていたのに。忘れたと思っていたのに。
 昨夜、頭を撫でられたことを思い出して、また頬が熱くなる。
 その手の温もりが、まだ残っているような気がして、意識せずにはいられなかった。