元カレ弁護士の恋事情

 キッチンにいた母に詰め寄ると、母はきょとんとした顔をしてから答えた。
「会社の人が車で送ってくれたわよ。なんでも、今の住所がわからないからって、実家(こっち)に」
 えええええ、片道2時間くらいかかるのに……。車って、もしかしてタクシーで?
 一体、いくらかかったんだろう。とんでもない金額になっていそうだ。
 申し訳なさがじわじわと込み上げてきて、頭を抱えた。
 
「でもあんた、あんな素敵な人がいるなら紹介しなさいよねぇ。お母さん、びっくりしちゃったわよ」
 母は呑気に頬を染めている。
「そ、そんなんじゃないから!」
 私は慌ててリビングの扉を閉めた。
 当時、言えるわけがなかった。久我さんの家は、私なんかとは釣り合わない家柄だったから。
 そんな人と私が、高校の時に一時でも付き合っていたなんて、きっと夢を見ていたのだ。
 
 謝罪の連絡を入れようと名刺を見るが、法律事務所の電話番号だった。
 彼が所長を務める、久我法律事務所。
 プライベートの、スマホの番号は載っていない。
 私はもう、彼の連絡先を知らない。
 別れてしまったあの時──〝誠治くん〟の連絡先は消してしまった。
 だってもう、二度と会わないと思っていたから。