元カレ弁護士の恋事情

 再び車に乗り込みドアが閉まると、外の音が遠のいた。
 すぐに出発し、静かな時間が続く。
「別れたのではなかったのですか」
 唐突に、犬飼が言った。
「仕事で偶然、再会しただけだ」
 そう答えると、犬飼は小さくため息をついた。
「旦那様になんと説明すれば……」
「何も言う必要はない。俺はそちらの意見に従い弁護士になった。これ以上の干渉は、親父でも許さん」
 窓の外へ視線を向けたまま、そう言い切る。

 十二年前、俺は父親の意向によって、映美と離れなければならなくなった。
 連絡先も消され、彼女に連絡を取る手段さえ失った。
 それでも、俺は父親との約束を守り、弁護士になった。
 胸を張って、もう一度映美に会うために。
 
 連絡手段を失った俺は、過去に一度だけ映美の実家を訪ねたことがある。
 だが、俺と映美の関係を知らない家族に、取り次いでもらうことはできなかった。
 それでも、映美を諦めたわけじゃない。
 いつか必ず、彼女を迎えに行くと、そう決めていた。
 ……もう誰にも、自分の人生を決めさせるつもりはない。
 
 しばらく沈黙が流れたあと、犬飼が控えめに訊ねた。
「本気……なのですか?」
 すぐには答えなかった。
 先ほどまで隣にいた映美のことを思い出す。
「……ああ」
 二度と、離すつもりはない。
 窓の外では、夜の街の明かりが途切れることなく流れていく。
 さっきまで肩に感じていた映美の重みが、まだ残っているような気がした。