帰り道。
階段を降りながら、雅は「白鳥雅」について自分が知っていることを2人に話さなければと思った。
もしかすると、自分はなにか不思議な事件に2人を巻き込んでしまったのかもしれない。
「……聞いてほしい話があるの。その……少し時間をもらえないかしら」
下駄箱を出るときに、2人に声をかける。
すると、ヤマトが
「中庭に行こうか。先生たちにバレないようにね」
と、やさしく快諾してくれた。
ジョウも無言で雅とヤマトの後についてきた。
中庭に移動して、ベンチに横並びで座る。
「突然ごめんなさい」
「ううん、大丈夫だよ。さっきのこと混乱したよね」
自分も混乱しているだろうに、そんな素振りを見せず、ヤマトはいつも通りやさしかった。
雅は、ぽつりぽつりと話しはじめる。
「……実はね。私、両親が離婚して……それで、栃木に引っ越してきたの」
「……そうだったんだね」
「いまは、母方の祖父母宅に住んでいて……」
雅は悩んだ。
自分が知っている「白鳥雅」についてどうやって切り出すのが良いだろうか。
すると、ジョウは、ベンチから立ち上がり、雅の話しを無視して花壇の前にしゃがみ込む。
「1.1.2.3.5.8.13.21.34」
「ジョウ、神崎さんが話してくれてるのに、なに言ってんの?」
「フィボナッチ数列や。たんぽぽにもらせん模様が見られるとわな」
たんぽぽに触れるジョウ。
雅は、そんなジョウの奇行を見て、少し緊張がほぐれた気がした。
「おい、そんなの見てる場合じゃないだろ」
「じゃあ、単刀直入に聞くわ。神崎って苗字は、父親の姓か?」
離婚に対するなんの同情もないジョウの質問に、ヤマトがすかさず割り込んだ。
「ジョウ! いきなり失礼だろ!」
「お前だって気になっとったやろ!」
「だからって、あんな聞き方はないだろ。神崎さんに謝れ」
「いやや。俺は間違ってない」
「いや! ジョウ、今回はさすがに目をつぶれない。神崎さんが傷つくと思わないのか!」
「俺は、真実を聞いてんねん!」
2人の口論を前に、雅の体が震え始める。
ああ、どうしよう。
まただ。
両親の口論を聞くときのように、雅は頭に白いモヤがかかろうとした。
だが、雅の異変に気付いたのか、ヤマトもジョウも言い争いをパタっとやめた。
「ご、ごめん! 神崎さん、大丈夫?」
ヤマトは、心配そうに雅の顔をのぞいた。
ジョウも少し反省したようで、たんぽぽを見ているかのように俯いた。
雅は、しばらく固まってしまった。
そうして、少しの時が経つ。
部活を終えた生徒たちが「おつかれー」と声を掛け合っているのが遠くに聞こえる。
けれど、2人は、急かさず、そして、何も言わずに雅の言葉を待った。
ヤマトがやさしく背中をポンポンと叩いてくれていて、雅は落ち着きを取り戻す。
「……大丈夫よ。ありがとう、ヤマトくん」
「ごめん……。大きな声を出したりして。それに、神崎さん、無理に話さなくてもいいんだよ」
「……ううん。2人には、話したいと思ったの」
「大丈夫……?」
「……うん。神崎は、母方の苗字よ」
雅の震える声にジョウが反応する。
「それで?」
今度は、やさしい、穏やかな声だった。
自分がこれを口にしたら、きっと2人も道連れになってしまうかもしれない。
でも、2人に隠しておくなんてできない。
「……父親の姓。私の前の苗字は……」
ヤマトとジョウの「ごくん」と息を呑む音が聞こえた気がした。
さあ、言わなければと雅は覚悟を決める。
「……白鳥……そう、私は白鳥雅だったの」
「「……」」
ジョウもヤマトも予想していただろう回答だっただろう。
それでも、動揺しているようだった。
「なにが起きているんだ……」
ヤマトは、頭を抱えた。
それはそうだ。
突然、もう一つの学校の座席表に現れた「白鳥雅」。
そして、目の前にいる「神崎雅」は、元々は「白鳥雅」だったという。
雅はそんなヤマトを見て、逆に冷静なれた。
当事者は自分なのだから、自分の見解をまずは話すべきだ。
「2人は……白鳥雅に心当たりはある?」
雅が2人の顔をまじまじと見ると、ヤマトがポカンとした顔で口を開く。
「え? どういうこと?」
「この学校に……白鳥雅がいるか、知りたいの」
「……白鳥雅なんて子は、中1、中2のときもいなかったし、他のクラスにもいないよな? ジョウ」
「……ああ」
「そうよね……」
3人はしばらく黙って、それぞれの考えを整理した。
この状況にうずうずしているヤマトが、
「じゃあ、あちら側の「白鳥雅」が、神崎さんってこと? でも、神崎さんは「神崎雅」だし……。あー! 混乱する!」
と茶髪の癖っ毛をぐちゃぐちゃっと掻いた。
まだ出会って数日の3人だけれど、同じ境遇ーーもう一つの学校への道が開かれている。
力を合わせて、もう一つの学校の「白鳥雅」について調べるなら、どうすればいいか。
それぞれがそれぞれの頭で考える。
雅は、思考を巡らせていると、ここは中高一貫校だということを思い出した。
「ここは中高一貫校だけれど、高校生と関わりがあるの?」
雅の質問にヤマトが反応する。
「え? 高等部の生徒は、ほとんど絡む機会はないよ。部活や委員会をやってれば別だけど。俺ら帰宅部だし」
「……そう。これは、提案なのだけれど、高等部に白鳥雅さんという人がいないか、調べられないかしら?」
「なんで?」
ジョウの問いに、雅は自分の考えを述べる。
「……こちら側にいるのは、神崎雅。そして、あちら側ーーもう一つの学校にいるのは、白鳥雅」
「ああ」
「もう一つの学校がこちら側のコピーなら、白鳥雅はこちら側にいるんじゃないかしら」
ヤマトはハッ!とひらめいた様子を見せてから、もう一度、ロダンの「考える人像」の姿に戻る。
「そうかもだけど。じゃあ、神崎雅があっち側の3年C組にいないのは、気になるよ!」
「……そうだけど。まずは、こちら側から調べた方がいいと思うわ。私があちら側に行ったことで今回のことが起きた。あちら側で、神崎雅を見つけるのには、きっと苦労すると思うの」
ジョウは、たんぽぽの頭の部分をプチッと取って立ち上がる。
「せやから、まずはこっち側からってことか」
階段を降りながら、雅は「白鳥雅」について自分が知っていることを2人に話さなければと思った。
もしかすると、自分はなにか不思議な事件に2人を巻き込んでしまったのかもしれない。
「……聞いてほしい話があるの。その……少し時間をもらえないかしら」
下駄箱を出るときに、2人に声をかける。
すると、ヤマトが
「中庭に行こうか。先生たちにバレないようにね」
と、やさしく快諾してくれた。
ジョウも無言で雅とヤマトの後についてきた。
中庭に移動して、ベンチに横並びで座る。
「突然ごめんなさい」
「ううん、大丈夫だよ。さっきのこと混乱したよね」
自分も混乱しているだろうに、そんな素振りを見せず、ヤマトはいつも通りやさしかった。
雅は、ぽつりぽつりと話しはじめる。
「……実はね。私、両親が離婚して……それで、栃木に引っ越してきたの」
「……そうだったんだね」
「いまは、母方の祖父母宅に住んでいて……」
雅は悩んだ。
自分が知っている「白鳥雅」についてどうやって切り出すのが良いだろうか。
すると、ジョウは、ベンチから立ち上がり、雅の話しを無視して花壇の前にしゃがみ込む。
「1.1.2.3.5.8.13.21.34」
「ジョウ、神崎さんが話してくれてるのに、なに言ってんの?」
「フィボナッチ数列や。たんぽぽにもらせん模様が見られるとわな」
たんぽぽに触れるジョウ。
雅は、そんなジョウの奇行を見て、少し緊張がほぐれた気がした。
「おい、そんなの見てる場合じゃないだろ」
「じゃあ、単刀直入に聞くわ。神崎って苗字は、父親の姓か?」
離婚に対するなんの同情もないジョウの質問に、ヤマトがすかさず割り込んだ。
「ジョウ! いきなり失礼だろ!」
「お前だって気になっとったやろ!」
「だからって、あんな聞き方はないだろ。神崎さんに謝れ」
「いやや。俺は間違ってない」
「いや! ジョウ、今回はさすがに目をつぶれない。神崎さんが傷つくと思わないのか!」
「俺は、真実を聞いてんねん!」
2人の口論を前に、雅の体が震え始める。
ああ、どうしよう。
まただ。
両親の口論を聞くときのように、雅は頭に白いモヤがかかろうとした。
だが、雅の異変に気付いたのか、ヤマトもジョウも言い争いをパタっとやめた。
「ご、ごめん! 神崎さん、大丈夫?」
ヤマトは、心配そうに雅の顔をのぞいた。
ジョウも少し反省したようで、たんぽぽを見ているかのように俯いた。
雅は、しばらく固まってしまった。
そうして、少しの時が経つ。
部活を終えた生徒たちが「おつかれー」と声を掛け合っているのが遠くに聞こえる。
けれど、2人は、急かさず、そして、何も言わずに雅の言葉を待った。
ヤマトがやさしく背中をポンポンと叩いてくれていて、雅は落ち着きを取り戻す。
「……大丈夫よ。ありがとう、ヤマトくん」
「ごめん……。大きな声を出したりして。それに、神崎さん、無理に話さなくてもいいんだよ」
「……ううん。2人には、話したいと思ったの」
「大丈夫……?」
「……うん。神崎は、母方の苗字よ」
雅の震える声にジョウが反応する。
「それで?」
今度は、やさしい、穏やかな声だった。
自分がこれを口にしたら、きっと2人も道連れになってしまうかもしれない。
でも、2人に隠しておくなんてできない。
「……父親の姓。私の前の苗字は……」
ヤマトとジョウの「ごくん」と息を呑む音が聞こえた気がした。
さあ、言わなければと雅は覚悟を決める。
「……白鳥……そう、私は白鳥雅だったの」
「「……」」
ジョウもヤマトも予想していただろう回答だっただろう。
それでも、動揺しているようだった。
「なにが起きているんだ……」
ヤマトは、頭を抱えた。
それはそうだ。
突然、もう一つの学校の座席表に現れた「白鳥雅」。
そして、目の前にいる「神崎雅」は、元々は「白鳥雅」だったという。
雅はそんなヤマトを見て、逆に冷静なれた。
当事者は自分なのだから、自分の見解をまずは話すべきだ。
「2人は……白鳥雅に心当たりはある?」
雅が2人の顔をまじまじと見ると、ヤマトがポカンとした顔で口を開く。
「え? どういうこと?」
「この学校に……白鳥雅がいるか、知りたいの」
「……白鳥雅なんて子は、中1、中2のときもいなかったし、他のクラスにもいないよな? ジョウ」
「……ああ」
「そうよね……」
3人はしばらく黙って、それぞれの考えを整理した。
この状況にうずうずしているヤマトが、
「じゃあ、あちら側の「白鳥雅」が、神崎さんってこと? でも、神崎さんは「神崎雅」だし……。あー! 混乱する!」
と茶髪の癖っ毛をぐちゃぐちゃっと掻いた。
まだ出会って数日の3人だけれど、同じ境遇ーーもう一つの学校への道が開かれている。
力を合わせて、もう一つの学校の「白鳥雅」について調べるなら、どうすればいいか。
それぞれがそれぞれの頭で考える。
雅は、思考を巡らせていると、ここは中高一貫校だということを思い出した。
「ここは中高一貫校だけれど、高校生と関わりがあるの?」
雅の質問にヤマトが反応する。
「え? 高等部の生徒は、ほとんど絡む機会はないよ。部活や委員会をやってれば別だけど。俺ら帰宅部だし」
「……そう。これは、提案なのだけれど、高等部に白鳥雅さんという人がいないか、調べられないかしら?」
「なんで?」
ジョウの問いに、雅は自分の考えを述べる。
「……こちら側にいるのは、神崎雅。そして、あちら側ーーもう一つの学校にいるのは、白鳥雅」
「ああ」
「もう一つの学校がこちら側のコピーなら、白鳥雅はこちら側にいるんじゃないかしら」
ヤマトはハッ!とひらめいた様子を見せてから、もう一度、ロダンの「考える人像」の姿に戻る。
「そうかもだけど。じゃあ、神崎雅があっち側の3年C組にいないのは、気になるよ!」
「……そうだけど。まずは、こちら側から調べた方がいいと思うわ。私があちら側に行ったことで今回のことが起きた。あちら側で、神崎雅を見つけるのには、きっと苦労すると思うの」
ジョウは、たんぽぽの頭の部分をプチッと取って立ち上がる。
「せやから、まずはこっち側からってことか」



