もう一つの学校

「ちょっと! なにやってたの! 遅いじゃん」

 階段を上りながら、ヤマトがブーブー文句を言う。

「……ヤマト、ごめんね。会議が長引いちゃって」
「るさいわ! だまれ、ボケ!」
「ジョウ、ひど! 待ってた人に向かってその態度!?」

 2人は、わちゃわちゃと言い合う。
 雅は、ヤマトに悟られないように、平然を装った。
 ジョウはヤマトには何も話さずにいてくれた。
 グレーの扉の向こう側につく。
 今日は白鳥雅が黒板の日直の名前を書くあたりに立っていた。

「……白鳥さん?」

 白鳥雅は、ひと呼吸置いてから振り返った。
 雅には、涙を拭いているようにも見えた。
 泣きたいのは雅の方だ。
 だが、白鳥雅にもなにかあったのかもしれない。

「どうしたの?」

 雅は白鳥雅の元に駆け寄った。
 ジョウとヤマトは、自分の席に座る。
 2人は、女の子同士の話になると、会話には混ざらないように努めていた。
 女子には女子の話題がある。
 そう思い、雅だけを白鳥雅の元に行かせた。
 雅がハンカチを差し出す。
 白鳥雅はハンカチを受け取り、
「……なんでもないわ」
 と言いながら、背中を向けた。
 雅はそんな白鳥雅の背中を、トントントンとゆっくり叩いた。
 どうしたのだろう。
 白鳥雅は、雅と比べると、表情豊かであった。
 たまに微笑むこともあって、ああ、自分はこうやって笑っていたのかと思い出す。
 そういえば、白鳥雅は、黒板を見て泣いているようだった。
 黒板になにか書かれているのだろうか。
 雅がふと目線を黒板にやろうとしたとき!

ーーガタガタガタガタ!

 突然。
 地震のように教室が揺れ始めた。
 机も椅子もすべてが同時に振動する。

「なに!?」
「なにが起きた?」

 ヤマトとジョウも周囲を見渡した。
 雅は白鳥雅と体を寄せ合った。
 今度は、なに?
 なにが起きているの?
 そして、「カチッ」という音に気づく。
 上を向くとーー。
 
「時計の針が……動いた?」

 時計の針は、0時から0時1分に変わっていた。
 いままでこんなことなかったのに。
 これは異常事態だ。
 雅は体で危険を察知した。
 隣の白鳥雅も恐怖で震えている。

ーーガタガタガタガタ。

 すると今度は、教室が後ろ側に傾いた。

ーーガガガガガ。

 机と椅子が雪崩のように後方へ移動する。
 雅たちも教室の後ろに引っ張られそうだ。

「わ……!」

 雅と白鳥雅は、無意識に黒板のチョーク置き場にしがみついた。
 すると、白鳥雅は、雅の背中をバンと叩く。

「戻って!」

 なんとも言えない表情だった。
 4人に押し寄せる緊迫感。
 ジョウとヤマトは、慌てて掃除用具入れの扉を開けて、雅を待つ。

「早く来い!」

 ジョウの言葉に雅は反応して、後方に向かおうとした。
 だが、すぐに踏み止まった。
 だって、白鳥雅をひとりで置き去りにすることになる。
 なにが起きているかもわからないこの場に。

「行けないわ! 白鳥さんがひとりになっちゃう」
「雅ちゃん、なに言ってるの! 早く!」

 ヤマトが掃除用具入れに下半身を突っ込みながら叫ぶ。
 ジョウも続いて、掃除用具入れに足を突っ込んだ。
 だが、次の瞬間、教室はさらに後方へ傾いた。

「きゃっ!」

ーーガガガガガガガガガ!

「雅!!!」

 ジョウの叫び声がもう一つの学校に響いた。