ジョウとヤマトと典姫神社で会った次の日。
雅は、14時にジョウと会う約束をした。
台光院というお寺近くにあるもんじゃ焼き店。
昭和の気配が残るポスターやステッカーが壁に貼られていて、昔ながらの雰囲気に包まれている。
雅は座敷に上がり、ジョウを待った。
今日は悩みに悩んで、結局制服を着てきてしまった。
ジョウと私服で出かけるなんて、まるでデートと勘違いしているみたいだと自粛した。
ーーガラッ。
扉が開いた音がして振り向くと、私服姿のジョウが現れた。
「なんでお前、制服なん? においつくで」
「……えっと、その……この後、田中先生のところに行く予定があるのよ」
雅はとっさにうそをついた。
ジョウが目の前にどすっと座る。
雅は姿勢を正し、目の前の鉄板に目線を下げた。
「また学校に行くんか」
「田中先生と話したら、すぐに帰るわ」
「わかった、学校まで送るわ」
「ひとりで大丈夫よ」
「あっそ」
店のおばちゃんは、2人が揃ったことを確認すると注文をとりにくる。
「あれ? ジョウくんじゃないかい」
「ああ、おばちゃん。明太もちもんじゃ、ひとつね。お前は?」
「え? 私は……えっと……チーズもんじゃを」
「なんだい。ジョウくんは、いつもと同じじゃないか。まあ、彼女を連れてきたのは初めてだけどね」
おばちゃんがニコニコしながらジョウの背中を叩く。
ジョウが否定しないので、雅は思わず「彼女じゃありません」と訂正した。
「あら、そうかい。未来の彼女かね? ははは」
おばちゃんは、笑いながらキッチンへ行ってしまった。
「ちょっと、なんで否定しないの?」
「あ? 気にすんな。あんなんほっとけばええ」
ジョウはいつもの調子だ。
ーーピコン。
机の上に置いてあった雅の携帯が鳴る。
通知とともに「つかさ」と表示された。
雅はその通知を無視して、ジョウに「よく来るの? このお店」と質問した。
「ああ。家族でな」
「そうなの。お父さんとお母さんと? ……そういえば、ジョウってきょうだいいるの?」
「まあ」
「まあってなによ。私、ひとりっ子だからうらやましいわ」
「別にいてもいなくても一緒やろ」
「そんなことないわよ。弟? お姉ちゃん? あ、当てるから待って」
そうやっているうちまた「ピコン」と雅の携帯が鳴る。
つかさだ。
「……つかさって誰?」
「え?」
雅は、ジョウにストレートに聞かれて戸惑った。
返答に困っていると、
「彼氏とか?」
と、ジョウが聞くので、
「彼氏なんていないわよ」
と慌てて答えた。
気まずい空気が流れて、雅は言い返す。
「ジョウだって、彼女いるんじゃないの? クラスの子が噂してたわ」
「そんなん、一度もいたことないわ」
「……」
「俺の話なんてどうでもええ。で、つかさって誰や」
「つかさは、幼馴染よ」
「幼馴染なら幼馴染ってすぐに答えればいいやろ」
「幼馴染であり、相方っていうか……」
「元カレか」
「違うわ」
「じゃあ、なんやねんその曖昧な回答は! どんな男や、幼馴染であり、相方って」
「え? つかさは、女の子よ」
「は?」
雅は、自分が小学校低学年からバトミントンをやっていて、幼馴染のつかさがペアーーつまり相方だったことを説明した。
自分の小学生のころの話を誰かにするのは、初めてだった。
あの頃。
バドミントンがない日はつかさとメイクをしたり、プリクラを撮ったりして遊んだ。
あのときは、まだケラケラと笑える自分がいたことを思い出す。
もちろん、つかさは、女子であることも改めて説明した。
つかさという名前の女子に出会ったのは、雅もつかさが初めてだったので、疑う気持ちもわかる。
ジョウが信じないので、財布の中に入れてあるつかさと撮ったプリクラをジョウに見せた。
すると、ジョウは「紛らわしいやつやな」と言いながらやっと納得したようだった。
「ふぅ」
誤解は、解けたみたいね。
雅は、長財布の中にプリクラを保管する癖があり、こんなにも溜まっていたのかと自分ごとなのに驚いた。
「はい、おまち!」
もんじゃがやってきて、ジョウは無言で作り始める。
雅が手伝おうとすると「俺がやるから」と断られた。
ジョウは手を鉄板に近づけ「210℃くらいか」とつぶやく。
その後、上手にキャベツの土手を作って、その中に汁を入れた。
最後は、手慣れた手つきで薄く伸ばす。
「ほら。食べていいで」
「ありがとう。上手ね」
「まあまあやな。もんじゃは、合理的な熱力学のシステムや」
「なにそれ」
「お前はなにもわかっとらんわ」
「ねえ」
「なに?」
「ヤマトとジョウは、幼馴染なの?」
雅は、ずっと気になっていたことを口にする。
ジョウは、いつもある一定の線を引いている。
自分のことはあまり聞いてほしくないような雰囲気を出しているのだ。
でも、聞くなら今な気がする。
「いや、俺が小4のときにこっちに引っ越してきてからや」
「ずっと同じクラスなの?」
「ああ。小4.5.6と中1.2.3とずっと一緒。腐れ縁やな。受験は俺がするって言ったら、あいつも織姫受けるって言い出したし」
「ヤマトらしいわ。ジョウのことが好きなのね」
「どうだか。関西弁をマスターしたいから一緒にいるっていっとったで?」
「なにそれ」
質問されても嫌ではなさそう。
よかった。
グツグツしているもんじゃを頬張りながら、雅は続けた。
「関西出身なの?」
「ああ、大阪や」
「大阪のどこらへん?」
「言ってもわからんやろ」
「じゃあ、なにか習い事はやっていた?」
「……総合格闘技」
「なにそれ」
「手に持ってる便利なもんで調べてみ?」
「家に帰ったら調べてみる。栃木ではやらないの?」
「……」
ジョウは、無言になる。
この先は聞かれたくないらしい。
雅は、ジョウに無理して話してほしいとは思わなかったので、話題を変えることにした。
「そういえば、今日ってなんの会?」
「あいびきやろ」
「あいびき!? それは付き合ってる男女がすることでしょ?」
「じゃあ、付き合うか?」
「え?」
ーーカランカラン。
雅は驚いてヘラを落としてしまった。
あいびき?
それに付き合うかってなに?
ジョウはなにもなかったかのように、新しいヘラを雅に差し出した。
「ほら、焦げてる。はよ食べ」
◇◆◇
雅とジョウは、もんじゃを平らげた後、台光院を散歩することにした。
お堀の中を泳ぐ鯉を見て、雅がつぶやく。
「白鳥雅さんにもう一つの学校で会ったこと、一応ヤマトにも話しておこうと思うの」
「そうか」
「反対しないの?」
「お前が決めたことやろ」
「なにも聞かないのね」
「聞いてほしいんか?」
「そうじゃないけど。ジョウは、いつもストレートに思ったこと言うじゃない」
「まあ、なんやろ。お前にも時間が必要やと思ってん」
「ありがとう。あちら側の出来事は、整理してから……話すわ」
「……わかった」
その後、ジョウは、結局、雅を学校まで送った。
気づけば17時前。
「田中先生との待ち合わせ、大丈夫なん?」
「え? あ、うん、17時ごろって言ってあるから」
「じゃ、ゴールデンウィーク明けにな」
「うん、学校までありがとう」
ジョウの後ろ姿を見送る。
今日の「付き合うか?」は、告白だったのだろうか。
それとも冗談だったのか……ジョウを問いただしたくなった。
もし本気ならきちんと返事をしなくてはならないし……。
でも、白鳥雅のことだけで今は頭がいっぱいだった。
雅は、14時にジョウと会う約束をした。
台光院というお寺近くにあるもんじゃ焼き店。
昭和の気配が残るポスターやステッカーが壁に貼られていて、昔ながらの雰囲気に包まれている。
雅は座敷に上がり、ジョウを待った。
今日は悩みに悩んで、結局制服を着てきてしまった。
ジョウと私服で出かけるなんて、まるでデートと勘違いしているみたいだと自粛した。
ーーガラッ。
扉が開いた音がして振り向くと、私服姿のジョウが現れた。
「なんでお前、制服なん? においつくで」
「……えっと、その……この後、田中先生のところに行く予定があるのよ」
雅はとっさにうそをついた。
ジョウが目の前にどすっと座る。
雅は姿勢を正し、目の前の鉄板に目線を下げた。
「また学校に行くんか」
「田中先生と話したら、すぐに帰るわ」
「わかった、学校まで送るわ」
「ひとりで大丈夫よ」
「あっそ」
店のおばちゃんは、2人が揃ったことを確認すると注文をとりにくる。
「あれ? ジョウくんじゃないかい」
「ああ、おばちゃん。明太もちもんじゃ、ひとつね。お前は?」
「え? 私は……えっと……チーズもんじゃを」
「なんだい。ジョウくんは、いつもと同じじゃないか。まあ、彼女を連れてきたのは初めてだけどね」
おばちゃんがニコニコしながらジョウの背中を叩く。
ジョウが否定しないので、雅は思わず「彼女じゃありません」と訂正した。
「あら、そうかい。未来の彼女かね? ははは」
おばちゃんは、笑いながらキッチンへ行ってしまった。
「ちょっと、なんで否定しないの?」
「あ? 気にすんな。あんなんほっとけばええ」
ジョウはいつもの調子だ。
ーーピコン。
机の上に置いてあった雅の携帯が鳴る。
通知とともに「つかさ」と表示された。
雅はその通知を無視して、ジョウに「よく来るの? このお店」と質問した。
「ああ。家族でな」
「そうなの。お父さんとお母さんと? ……そういえば、ジョウってきょうだいいるの?」
「まあ」
「まあってなによ。私、ひとりっ子だからうらやましいわ」
「別にいてもいなくても一緒やろ」
「そんなことないわよ。弟? お姉ちゃん? あ、当てるから待って」
そうやっているうちまた「ピコン」と雅の携帯が鳴る。
つかさだ。
「……つかさって誰?」
「え?」
雅は、ジョウにストレートに聞かれて戸惑った。
返答に困っていると、
「彼氏とか?」
と、ジョウが聞くので、
「彼氏なんていないわよ」
と慌てて答えた。
気まずい空気が流れて、雅は言い返す。
「ジョウだって、彼女いるんじゃないの? クラスの子が噂してたわ」
「そんなん、一度もいたことないわ」
「……」
「俺の話なんてどうでもええ。で、つかさって誰や」
「つかさは、幼馴染よ」
「幼馴染なら幼馴染ってすぐに答えればいいやろ」
「幼馴染であり、相方っていうか……」
「元カレか」
「違うわ」
「じゃあ、なんやねんその曖昧な回答は! どんな男や、幼馴染であり、相方って」
「え? つかさは、女の子よ」
「は?」
雅は、自分が小学校低学年からバトミントンをやっていて、幼馴染のつかさがペアーーつまり相方だったことを説明した。
自分の小学生のころの話を誰かにするのは、初めてだった。
あの頃。
バドミントンがない日はつかさとメイクをしたり、プリクラを撮ったりして遊んだ。
あのときは、まだケラケラと笑える自分がいたことを思い出す。
もちろん、つかさは、女子であることも改めて説明した。
つかさという名前の女子に出会ったのは、雅もつかさが初めてだったので、疑う気持ちもわかる。
ジョウが信じないので、財布の中に入れてあるつかさと撮ったプリクラをジョウに見せた。
すると、ジョウは「紛らわしいやつやな」と言いながらやっと納得したようだった。
「ふぅ」
誤解は、解けたみたいね。
雅は、長財布の中にプリクラを保管する癖があり、こんなにも溜まっていたのかと自分ごとなのに驚いた。
「はい、おまち!」
もんじゃがやってきて、ジョウは無言で作り始める。
雅が手伝おうとすると「俺がやるから」と断られた。
ジョウは手を鉄板に近づけ「210℃くらいか」とつぶやく。
その後、上手にキャベツの土手を作って、その中に汁を入れた。
最後は、手慣れた手つきで薄く伸ばす。
「ほら。食べていいで」
「ありがとう。上手ね」
「まあまあやな。もんじゃは、合理的な熱力学のシステムや」
「なにそれ」
「お前はなにもわかっとらんわ」
「ねえ」
「なに?」
「ヤマトとジョウは、幼馴染なの?」
雅は、ずっと気になっていたことを口にする。
ジョウは、いつもある一定の線を引いている。
自分のことはあまり聞いてほしくないような雰囲気を出しているのだ。
でも、聞くなら今な気がする。
「いや、俺が小4のときにこっちに引っ越してきてからや」
「ずっと同じクラスなの?」
「ああ。小4.5.6と中1.2.3とずっと一緒。腐れ縁やな。受験は俺がするって言ったら、あいつも織姫受けるって言い出したし」
「ヤマトらしいわ。ジョウのことが好きなのね」
「どうだか。関西弁をマスターしたいから一緒にいるっていっとったで?」
「なにそれ」
質問されても嫌ではなさそう。
よかった。
グツグツしているもんじゃを頬張りながら、雅は続けた。
「関西出身なの?」
「ああ、大阪や」
「大阪のどこらへん?」
「言ってもわからんやろ」
「じゃあ、なにか習い事はやっていた?」
「……総合格闘技」
「なにそれ」
「手に持ってる便利なもんで調べてみ?」
「家に帰ったら調べてみる。栃木ではやらないの?」
「……」
ジョウは、無言になる。
この先は聞かれたくないらしい。
雅は、ジョウに無理して話してほしいとは思わなかったので、話題を変えることにした。
「そういえば、今日ってなんの会?」
「あいびきやろ」
「あいびき!? それは付き合ってる男女がすることでしょ?」
「じゃあ、付き合うか?」
「え?」
ーーカランカラン。
雅は驚いてヘラを落としてしまった。
あいびき?
それに付き合うかってなに?
ジョウはなにもなかったかのように、新しいヘラを雅に差し出した。
「ほら、焦げてる。はよ食べ」
◇◆◇
雅とジョウは、もんじゃを平らげた後、台光院を散歩することにした。
お堀の中を泳ぐ鯉を見て、雅がつぶやく。
「白鳥雅さんにもう一つの学校で会ったこと、一応ヤマトにも話しておこうと思うの」
「そうか」
「反対しないの?」
「お前が決めたことやろ」
「なにも聞かないのね」
「聞いてほしいんか?」
「そうじゃないけど。ジョウは、いつもストレートに思ったこと言うじゃない」
「まあ、なんやろ。お前にも時間が必要やと思ってん」
「ありがとう。あちら側の出来事は、整理してから……話すわ」
「……わかった」
その後、ジョウは、結局、雅を学校まで送った。
気づけば17時前。
「田中先生との待ち合わせ、大丈夫なん?」
「え? あ、うん、17時ごろって言ってあるから」
「じゃ、ゴールデンウィーク明けにな」
「うん、学校までありがとう」
ジョウの後ろ姿を見送る。
今日の「付き合うか?」は、告白だったのだろうか。
それとも冗談だったのか……ジョウを問いただしたくなった。
もし本気ならきちんと返事をしなくてはならないし……。
でも、白鳥雅のことだけで今は頭がいっぱいだった。



