もう一つの学校

 今年のゴールデンウィークは、7連休。
 連休中でも、部活は休みなし。
 なので、学校に出入りする生徒がいるため、学校は開いてる。
 連休の中日。
 ジョウとヤマトは、学校に来ていた。
 テニスコートを横目にヤマトが話し始める。

「雅ちゃんには申し訳ないけど、白鳥雅の件は、俺たちでなんとかしよう」
「ああ。生徒会の名簿の件、今日中にどうにかする」
「高等部の生徒会に入ってる知り合いが、名簿の管理については、生徒会長と会計の2人しかわからないって」
「生徒会長と会計……」
「会計は、高2の八島涼。一匹狼で交友関係は壊滅的。友達と呼べる友達はいないんじゃないかな。鉄壁の防御だね〜」

 ヤマトは饒舌に続ける。

「生徒会長は、高3の野村美咲。誰にでも愛されるキャラクターだけど、八方美人だなありゃ。交友関係は広いけど、胡散臭い笑顔が気になる」
「ヤマト、それお前が言うか? 胡散臭い笑顔」
「ははは。たしかに! でも、俺は研究に研究を重ねた“隙”があるからな〜。彼女には、隙がない」
「生徒会長の方から探り入れてたんやろ?」
「まあね、俺と似てるところがあるし。でも、深い仲の友人には、たどり着けてない」
「そこまでちゃんとしてると、この学園も安泰やな」
「そんなこと言ってる場合〜?」
「俺に考えがある」
「おお! どんな作戦? てか、雅ちゃん。体調戻ったかな?」
「ああ、もうすっかり良くなったって言ってたで」
「なんで知ってるの?」
「……」
「ちょっと! ジョウ! 抜け駆け!?」
「るさいわ! まずは、作戦やろ」

 2人は靴を履き替えて、ある場所へ向かった。

◇◆◇

 ロイヤル感のある重厚な扉の前。
 この扉の先が、生徒会室。
 ジョウは、ヤマトの背中を叩いた。

「作戦通りに頼むで。ヤマト」
「おいおい、まじでやんのかよ。生徒名簿強奪なんて、バレたら退学も覚悟だぞ」
「バレへんようにやるんや」

ーーコンコンコンコン。

「失礼します」
「どうぞ」

 応答があり、ジョウは生徒会室に入室した。
 広々とした生徒会室には、ところどころに来客用のソファと机のセットが置いてある。
 部屋の奥には、窓が広がり、校庭を見下ろせる。
 窓の外を見ていた人物が振り返り、ジョウの方へ近づいてきた。
 高等部の制服を着た、小柄のショートカットで、子犬のようなかわいらしい人。

「君は……中等部の生徒だね。なにか御用かな?」

 その人は、ニコッと笑い、あざとく首を傾げた。
 俺の苦手なタイプやな。

「突然すんません」
「ううん、生徒会は、中等部の生徒も大歓迎だよ。こちらにどうぞ!」

 ショートカットの先輩は、すぐ近くのソファ席にジョウを案内した。

「座って座って。今日、登校している生徒会メンバーが少ないの。なにか飲み物を出すから、ちょっと待っていてね」

 ジョウは、窓に背を向けて座った。
 ジョウが座った位置からは、生徒会室の扉が見える。
 もし、ショートカットの先輩がジョウの向かい合わせに座れば、後ろの扉は見られない。
 うまくやれよ、ヤマト……。
 すると先輩がティーカップとともに戻ってくる。

「紅茶、飲めるかな?」
「はい、ありがとうございます」

 ジョウの分と自分の分のカップを机に置いて、その人物は向かい合わせに座った。
 ふぅ。
 さすがに隣には座らんよな。
 ここまでは、ジョウが思った通りにことが進んでいる。

「あ、自己紹介が遅れてごめんね。生徒会長の野村美咲です」

 そう言いながら、野村は右手を差し出した。
 ジョウは、野村の右手を取り、簡単な握手を交わす。

「中等部3年、和田譲です」

 野村は短めなスカートを整えてから、ソファにちょこんと腰を下ろした。

「ああ、君が和田くん。中等部の秀才だね! 噂はかねがね。学年トップは、君でしょ?」
「知っていただけて、光栄です。まあ、ゴールデンウィーク明けの中間はどうなるかわかりませんけど」
「ん? どういうこと? あ、せっかくだから紅茶、あたたかいうちに飲んでね」
「はい、いただきます。ズズッ。ゲホッゲホッ」

 ジョウが咳き込むと、野村は慌てて手に持っていたティーカップを置いた。

「大丈夫!? 熱かった!?」
「すんません。大丈夫です」

 ジョウのそれを合図に、少し開いていた扉からヤマトが静かに生徒会室に入ってきた。
 ジョウは、事前に生徒会室の構造を把握していた。
 入って左側。
 本棚の手前の床に隠し扉があり、その下が資料庫となっている。
 ある人物から生徒名簿は資料庫にあると確認が取れていたのだ。
 ヤマトが隠し扉に向かう様子を横目で確認すると、ジョウは野村との会話を続ける。

「単刀直入に聞きます。先輩は、白鳥雅という生徒をご存知ですか」

 ヤマトは、そのセリフを聞いて思わず声をあげそうになった。
 だが、ジョウは知る由もない。

「しらとり……みやびさん?」
「はい、探してるんです」

 だが、ジョウが続けるので、ヤマトはこれも作戦のうちなのだろうと納得した。
 そして、床下の扉の中に吸い込まれていった。

「マンモス校だからなあ。ひとりひとり名前まで覚えていないの。期待外れだったかな?」
「いえ……そうですか」

 ジョウは、高等部に「白鳥雅」という名前の生徒がいるのではないか、とほんの少しだけ期待していた。
 やっぱ、おらん可能性が高いか。

「和田くんは、関西弁なんだね」
「はい。小4まで大阪やったんで」
「私の身近にも関西弁の人がいてね。君と喋り方と声がそっくりなんだ」
「……声が似てる人なんてたくさんいますよ」
「ははは、そうだよね。関係ないことでごめんね! その、しらとりみやびさん? 名簿で確認しようか?」
「え……」
「生徒会でも生徒情報は、把握できるものがあってね。私ならすぐに確認できるんだけど」
「大丈夫です。急いでないんで。それにお手数ですし」

ーードクドクドクドク。

 ジョウの心拍は、最高潮に達していた。
 まずい。
 野村が生徒名簿を確認するために地下の資料庫にいけば、ヤマトと鉢合わせてしまう。

「でも、連休中にわざわざ学校に来るなんて。よっぽどのことなんじゃないの? 大丈夫。すぐ確認できるから」

 野村が立ち上がって、床扉の方へと向かう。
 ジョウは足元を見た。
 終わった……。
 すると、ジョウの背後から「会長、話があるんやけど」と声がする。
 野村は足を止めて応答した。

「ああ、八島くん。今、来客中で」
「急ぎの用なんです」
「急ぎなんて、めずらしいね」
「すんませんな」
「わかった。ごめんね、和田くん。少し待っていてもらえるかな?」
「はい……」

 ジョウは、手汗でしっとりとした手をズボンで拭き、ほっと胸を撫で下ろした。
 危機一髪だった。
 助かった……。

「あ、さっき、似た声の人がいるって話したでしょ? 彼なんだ。やっぱり似てるね」

 野村が八島を紹介すると、八島はジョウに目配せをしてから「はじめまして」とお辞儀をした。
 ジョウも立ち上がり「はじめまして」と似た声で応えた。
 そうして、野村と八島は、ジョウをその場に残し、奥の方にある小部屋にいってしまった。
 2人が完全にいなくなったことを確認してから、ジョウは急いでヤマトにLINEする。

《ジョウ:はよ、撤退しろ》
《ヤマト:え!? なんで!》
《ジョウ:説明はあとや》
《ヤマト:はいはい、りょーかい》

 野村が席を外している間に、ヤマトはこっそり床下から顔を出した。
 そして、ジョウの合図でそそくさと生徒会室を出ていった。
 生徒名簿強奪は無理があったか……。

 数分後。
 野村は小走りで戻ってくると、携帯のQRコードをジョウに提示した。

「連絡先を聞いてもいいかな? 今日、急ぎでやらなきゃいけないことが発生してしまって。さっきの話。連休明けまでには調べておくから! 連絡するね」