推しがわたしのファンでした

きなこどうふさんについて行くと、小さなレストランに連れていかれた。

「こんばんは」
「あら、あきちゃん。ひさしぶりね。今日は貸し切りにしてあるからくつろいでね」
「ありがとう、おばさん」

「あら、そちらは……もしかして彼女?」
「ちがうよ!」

 きなこどうふさんが焦った声で否定した。なんか、私、どうすればいいんだろ?
 困って立ち尽くしているときなこどうふさんが椅子を引いてくれた。

「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」

「で、君はakiyaのどこが好きなの?」
「ここにまとめてあります!」

私は分厚いakiyaファイルを『きなこどうふ』さんに渡した。
若干、きなこどうふさんが引いている気がした。

それにしても。黒いキャップにサングラス、顔を覆うような大き目のマスク。どう見てもきなこどうふさんは怪しい。私がまじまじときなこどうふさんの顔を見ていると、「あ、ごめんね」と言って『きなこどうふ』さんがマスクとサングラスを外した。

「え……」
なんですか? 私の脳、バグりましたか? それともこれは夢ですか?

目の前にいるの、akiyaなんですけど!?

「すごい。デビューの時のコメントとかファイリングしてある……。嬉しい」
「ごめんなさい! きもいですよね!? 怖いですよね!?」

 私は頭を下げて、akiyaに手を合わせた。

「月海月さん、落ち着いて」
「……はい」

机に置かれた水をぐっとのみ、ゆっくり息を吐いた。

「akiyaさんこそ、なんで私にコメントくれてたんですか?」
「『あーにゃん』のファンだからだよ。あれ読むと、肩の力が抜けてリラックスできるんだよね」
「はあ」

もう一つ、気になることを聞いた。

「なんで、私に会おうと思ったんですか?」
「なんども『あーにゃん』に助けられたから、作者にお礼を言いたかったんだ」

ええ!?
私は緊張のあまり、鯉みたいにくちをぱくぱくさせている。

「ヘタウマな絵でさ、癖になるっていうか。この前のやつも、子猫のあーにゃんがご飯食べて、おやつ食べて、おいしそうなアイス食べて、おなか痛いって泣いちゃう奴、なんかわかるわーって共感したし。仕事で緊張してるときとか、しんどいときとか、あーにゃん見てると力が抜けてマジで癒されてる」

Akiyaが目の前で笑っている。

灰になりそう。

(akiyaがあーにゃんのモデルですから、共感するのは当然です)と口走りそうになったけど、きもすぎるだろうと言葉を飲み込んだ。

「でさ、あーにゃん、今日の出来事って、まとめて読めないの?」
「あ、あの。それでしたら、本にしましょうか?」
「え? そんなことできるの?」

Akiyaが目を輝かせている。

「じゃあ、送り先書くね。代金は先払いで良い?」
「いいえ、お金なんて取りません」
「そんなわけにはいかないよ」
「でも」
「じゃあさ、今日のご飯代俺におごらせて」
「え?」

Akiyaはお店のおばさんに手を振った。

「おばさん、お任せコース二人前お願いします」
「はーい」
サラダを運んでくれたおばさんが「あきちゃんが彼女連れてきてくれるなんて嬉しいね」と言うと、akiyaは顔を真っ赤にして「だから、ちがうって。俺はこの人のファンなの!」と口をとがらせる。

お店を出る前、akiyaに住所を書いたメモを渡された。
「本できたら、ここに送ってね。待ってるから」

それだけ言うと、akiyaはマスクとサングラスをつけて、黒いキャップを深くかぶった。

「人にみつかるとヤバいから。俺、先に行くね。ごめんね。今日は来てくれてありがとう」
私は去って行くakiyaを見送ってから、店を出た。

手の中には、akiyaからもらった住所のメモがある。
「こんなんことあるんだ……」

私はメモをakiyaファイルにしまって、カバンの上からそっとなでた。

「良い本つくるぞ!」
帰ったらデータを集めて、印刷所を調べよう。
本なんて作ったことないけど、akiyaのためならきっと何でもできる。

こぶしを作ってグッと握った。