神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 「いや……」

 鏡の中で、エリザの頬がみるみるこけていく。
 肌から艶が失われ、目元には深い皺が刻まれ、美しく整えていた髪までもが白く色を失っていった。

 「いや……いやよ……!」

 会場のどこかから悲鳴が上がり、それをきっかけにざわめきが一気に広がる。

 「今度はエリザ様が……!」
 「何かの呪いなのか……!」

 無数の視線が、今度はエリザへ集中した。
 つい先ほどまで、同じ視線がシエラへ向けられていた。
 エリザはそれを、愉快そうに眺めていたはずだった。

 「見ないで……私を見ないでよ!」

 両手で顔を覆い、逃げるように後ずさる。

 「エリザ!」

 ベアトリスが人混みを掻き分けて駆け寄った。

 「私はこんなんじゃない! 私は綺麗なの! お姉様とは違うの!」

 叫びながら、エリザはその場へ崩れ落ちる。
 ベアトリスは変わり果てた娘を抱き寄せ、震える手で白くなった髪へ触れた。

 「私の、可愛い娘が……!」

 シエラは黙ってその姿を見つめていた。
 自分が同じ姿へ変えられていた時には、声を上げることすらなかったのに。

 その時だった。
 床へ落ちた鏡から、ぞわりと異様な気配が膨れ上がる。

 「……?」

 シエラが振り向くのとほぼ同時に、テオドアの表情が変わった。

 「……っ!」

 グランツも鏡を見るなり、顔色を変える。

 「全員、離れろ!」

 鋭い声が大広間へ響き渡った。
 鏡面を走っていた黒い亀裂から、どろりと濃い闇が溢れ出していく。

 「な、何……?」
 「まだ何か……!」

 ざわめきが、再び恐怖へ変わった。
 中央に埋め込まれた赤紫色の宝石が、生き物の心臓のようにどくんと脈打つ。
 次の瞬間、黒い魔力が何本もの鞭となって会場へ弾けた。

 「きゃあああっ!」

 悲鳴が響き、人々が一斉に逃げ惑う。
 宮廷魔術師たちが即座に前へ出て、次々と杖を構えた。

 「魔術師は前へ出ろ!」

 黒い光は柱を掠め、床を抉りながら、容赦なく周囲へ叩きつけられていく。

 「旦那様……!」

 テオドアがシエラを庇うように前へ出た。
 その向こうでは、黒銀の鏡ががたがたと不気味に震えている。

 「……まだだ」
 「え……?」

 テオドアは黒銀の鏡を睨んだまま、動かなかった。
 中央の赤紫色の宝石が、もう一度大きく脈打つ。

 「まだ――終わっていない」