神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 何度見ても、下にいるのは自分だった。
 テオドアの腕の中で目を閉じたまま動かない自分と、そのすぐ上に浮かぶ、淡い光で形作られたもう一人の自分。
 二つは紫色の光の鎖によって、かろうじて繋ぎ止められている。

 「どういうことなの……!?」

 思わず声を上げたが、誰もこちらを見なかった。

 「旦那様!」

 テオドアは腕の中のシエラを抱いたまま、俯いている。

 「聞こえますか!?」

 何度呼びかけても返事はない。
 すぐそばにいるのに、声だけが届かない。その事実が、じわじわと不安を大きくしていく。

 「旦那様……!」

 縋るように、もう一度名前を呼んだ。
 すると、テオドアがゆっくりと顔を上げる。

 「……え?」

 紫の瞳が、まっすぐこちらへ向けられた。
 ただぼんやりと人影を見ているのではない。確かに、シエラ自身を見ている。

 「シエラ」

 名前を呼ばれた瞬間、シエラの中に安堵が広がった。

 「……私が、見えるんですか?」

 恐る恐る問いかける。

 テオドアに見つけてもらったことで、霞んでいた輪郭が少しずつ鮮明になっていく。
 失いかけていた自分自身が、この世界へ引き戻されていくようだった。
 
 「……見える」

 テオドアは確かめるように呟く。

 「ちゃんと、君が見える」

 その声を聞き、シエラはようやく息をついた。
 けれど安堵したのも束の間、すぐにテオドアの異変へ気づく。

 「旦那様……顔色が……」

 いつもより明らかに青白い。額には汗が滲み、呼吸も浅くなっている。
 それでもテオドアは、シエラの魂と肉体を繋ぐ紫色の光を絶えず維持し続けていた。

 「気にするな」
 「でも――」
 「今は君のことだけ考えろ」

 声だけを聞けば、いつもの落ち着いたテオドアと変わらない。
 けれど、その奥に余裕がないことくらい、今のシエラには分かった。

 何かできることはないのか。
 焦るように自分の肉体へ視線を落とした時、今まで気づかなかったものが目に入った。

 「……何、これ」

 黒い糸のようなものが、頭から首、胸、腕へと全身を縛るように絡みついている。
 その部分だけ魔力の流れが滞り、奥から何かを吸い取られているような嫌な感覚があった。

 「これが……私を苦しめてるの?」
 「分かるのか」
 「はっきりとは……でも、たぶん」

 シエラはゆっくりと自分の肉体へ手を伸ばした。
 けれど、指先は触れることなく、そのまま身体をすり抜けてしまう。

 「……触れない」