神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~


 「……駄目だ」

 掠れた声が漏れる。

 「行くな」

 テオドアはシエラの胸元へ手を添えた。

 ミューゼル家が得意とする、封印と固定の魔術。
 本来ならば、形のない魂へ用いるような術ではない。

 それでも、今は他に手段がなかった。
 テオドアは膨大な魔力を注ぎ込み、既存の術式を強引に組み替えていく。

 「――繋がれ」

 紫色の光が弾けた。
 無数の光が細い鎖となってシエラの肉体から伸び、その先が宙へ浮かぶ魂へと絡みつく。

 「……!」

 完全に離れかけていた魂が、ぴたりと止まった。

 「魂にまで、封印術を通したのか……!」

 グランツが息を呑む。
 テオドアの顔色は急速に青ざめ、額には汗が滲んでいた。呼吸も荒くなっているのに、それでも術を緩める気配はない。

 「シエラ……」

 返事はない。

 「頼む」

 掠れた声で、縋るように名を呼ぶ。

 「——戻ってきてくれ」

 *

 ——暗い。

 何も見えず、身体の感覚さえない。
 深い水の中を、どこまでも漂っているようだった。

 (……ここ……どこ……?)

 ぼんやりと意識が戻ってくる。
 やがて視界が少しずつ開けていき、シエラは何気なく下を見た。

 (……え?)

 そこには、自分がいた。
 テオドアの腕の中で、目を閉じたままぴくりとも動かない自分。
 何が起きているのか分からず、シエラは恐る恐る自分の手を見る。

 手は透けていた。
 指も、腕も、身体も、すべてが淡い光で形作られている。

 (……うそ)

 もう一度、下にいる自分へ視線を落とす。
 そこで、ようやく理解した。

 (私――身体から、出ちゃってる……!?)