神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 エリザは鏡の中のシエラを見つめたまま、さらに魔力を注ぎ込んだ。

 (全部、全部、許せない)

 もはや、今のエリザが望むのは名声でも、テオドアの隣でもなかった。
 ただ、壊してやりたい。
 シエラが手に入れたものを、何もかも。

 (お姉様の幸せを……すべて)

 瞬きもせず、鏡の中のシエラだけを見つめ続ける。

 「さあ、私の願いを叶えて」

 鏡面が黒い水のように大きく揺らぎ、どくん、と脈打つように光った。
 
 「お姉様は——醜いのよ」
 
 その瞬間、赤紫色の光が強く瞬いた。

 *
 
 会場では、シエラがテオドアの隣で貴族たちと言葉を交わしていた。
 ふいに、身体がよろめいた。

 「……?」
 「どうした」
 
 テオドアがすぐに気づいて、シエラに声をかける。

 「いえ……少し、眩暈がしただけです」

 そう答えたものの、どこかおかしい。
 急に身体が重くなり、いつもより息もしづらい気がする。

 「疲れたのかもしれません」
 「少し座るか」
 「大丈夫です」

 笑ってそう返そうとした瞬間、ぞくりと強い悪寒が背筋を駆け抜けた。

 「……っ」
 
 「シエラ?」

 指先から急速に力が抜けていく。
 呼吸も浅くなり、頬には妙な違和感があった。皮膚が引き攣るように突っ張っている。

 「何……?」

 視線を上げると、すぐ近くに置かれた大きな姿見が目に入った。
 そして――息を呑んだ。

 「……え?」

 鏡の中の自分は、先ほどまでとは明らかに違っていた。
 頬から血色が失われ、目元には濃い影が落ちている。乾いた肌には、見る間に細かな皺が浮かび始めていた。

 「何……これ……」

 変化は止まらない。
 頬がこけ、目元が落ち窪んでいく。艶のあった亜麻色の髪まで、徐々に色を失っていった。
 まるで何十年という時間だけを、一瞬で奪われているようだった。

 「公爵夫人のお顔が……!」
 「何が起きている!?」

 周囲から悲鳴が上がる。けれどシエラは、鏡から目を逸らせなかった。
 老いさらばえたような顔。生気を失っていく肌。色褪せていく髪。
 震える指で、自分の頬へ触れる。
 
 「……いや……」

 その瞬間、ずっと昔に置いてきたはずの言葉が、頭の中へ次々と蘇った。

 『醜い子』
 『顔を隠しなさい』
 『そんな顔で人前に出るなんて恥ずかしい』
 『エリザとは違うのよ』

 もう、そんな言葉に縛られる必要はないと知ったはずだった。
 自分を醜いと決めつけなくていい。人の目を怖がって、俯かなくてもいい。ようやく、そう思えるようになったはずなのに。
 囁く声と共に、周囲の視線が突き刺さる。
 
 「まるで別人のようだ……」
 「……なんて酷い……」

 まるで再びシエラを縛る機を待っていたかのように、身体に染みついた恐怖がじわじわと浮かび上がってくる。
 
 見られたくない。隠れたい。
 そして何より――。

 「……見ないで」
 「シエラ」

 すぐ隣からテオドアの声が聞こえ、シエラは反射的に両手で顔を覆った。