神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 「ミューゼル公爵。これは親子の話でしてな」
 「そうですか」

 テオドアは短く答えると、自然な動作でシエラの隣に並んだ。

 「それにしては、穏やかな話には見えませんでしたが」
 「私はただ、この子のためを思って――」
 「必要ありません」

 アルベルトの言葉を遮ったのは、シエラだった。

 「私は、自分が必要だと思う人たちのために、この力を使います」
 「シエラ、いい加減に――」

 再び近づこうとしたアルベルトの前へ、テオドアが一歩出る。

 「本人が望んでいない以上、他人が口を出すことではありません」

 アルベルトの眉が険しく寄った。
 けれど、テオドアは一切怯まない。

 「私は、彼女の意思を尊重します」

 その言葉に、シエラは思わずテオドアを見上げた。

 「……随分と、妻を甘やかしておられるようだ」

 アルベルトが吐き捨てるように言う。

 「そう見えるなら、それで構いません」

 テオドアは一切表情を変えずに言い切った。
 アルベルトの顔が一層険しくなる。それでも、公爵であるテオドアを前に、それ以上言葉を重ねることはなかった。
 
 しばし睨み合ったあと、テオドアはシエラへ向き直り、静かに手を差し出した。

 「行くぞ、シエラ」
 「……はい」

 シエラはその手に、迷わず自分の手を重ねた。
 アルベルトの横を通り過ぎる。
 背後から刺すような視線を感じても、もう足を止めることはなかった。

 少し離れたところまで来ると、テオドアが足を止める。

 「大丈夫か」
 「はい。ありがとうございました」

 そう答えてから、シエラは少しだけ笑った。

 「言いたいことを言ったら、ちょっとすっきりしました」

 テオドアも、わずかに口元を緩める。

 「ああ。よく言った」

 その一言に、シエラはもう一度笑った。