神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 王宮の大広間には、華やかな衣装に身を包んだ貴族たちが集っていた。
 その中心で招待客と言葉を交わしているのは、久方ぶりに公の場へ姿を見せたアーヴィンだ。
 長く体調を崩していたとは思えないほど顔色はよく、表情も穏やかだった。
 
 「本当にお元気になられたのね」
 「以前とはお顔つきまで違って見えるわ」

 そんな驚きと安堵の声が交わされる中、シエラとテオドアもアーヴィンの前へ進み出た。
 テオドアが、まずは口火を切った。
 
 「アーヴィン殿下。このたびはご復帰、おめでとうございます」
 「ありがとう」

 穏やかに笑ったアーヴィンは、すぐにシエラへ視線を向ける。

 「こうして再びここへ立てているのは、あなたのおかげだ」
 「そんな……私は、自分にできることをしただけです」
 「その“できること”が、これまで誰にもできなかった」

 アーヴィンは、その場にいる者たちへ聞かせるように続ける。

 「長い間、私は不調に悩まされていた。ミューゼル公爵夫人がいなければ、今頃どうなっていたか分からない」

 周囲の視線が、一斉にシエラへ集まる。
 以前の自分なら、人目に怯えて俯いていただろう。
 けれど今は、隣にいるテオドアの眼差しに背中を押されるように、まっすぐ前を向けた。

 「……ありがとうございます、殿下」

 シエラが微笑むと、周囲から感嘆の声が上がった。
 その後も二人のもとには多くの人が訪れ、シエラの力にも、テオドアの魔術にも称賛が集まった。

 なかでも、テオドアへ熱い視線を送る令嬢は少なくない。
 かつて“屍人公爵”と呼ばれていた頃など、まるで嘘のようだった。
 
 「本当にお似合いのご夫婦ね」
 「羨ましいわ」

 そんな声まで耳に入り、シエラは少しだけ照れくさくなる。
 
 「公爵夫人」
 
 聞き覚えのある声に顔を上げると、ルシアンがこちらへ歩いてくるところだった。
 
 「ルシアン様」
 「こんばんは。いやあ……今日は一段とお美しいですね」
 
 シエラの姿を眺め、ルシアンが感心したように目を細める。
 
 「これではテオドアも気が気じゃないでしょう」
 
 少し離れたところにいるテオドアへ意味ありげな視線を送り、ルシアンは楽しそうに笑った。
 
 「では、また後ほど」
 「はい」

 ルシアンが人々の輪へ戻っていく。
 その背中を見送った直後だった。

 「シエラ」

 聞き慣れた声に、シエラの指先がぴくりと止まった。
 振り返れば、そこには父――アルベルトが立っていた。