神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 茶会を終えて屋敷へ戻ったエリザは、玄関ホールへ足を踏み入れるなり、苛立たしげに手袋を外した。

 「お帰りなさいませ、エリザ様」

 出迎えた侍女が、エリザの外套を受け取ろうと手を伸ばす。
 その拍子に留め具へ指を引っかけ、外套をわずかに引いてしまった。

 「あっ……申し訳ございません」
 「痛っ……!」

 エリザの顔が歪む。

 「も、申し訳ございません!」

 侍女が慌てて頭を下げた、次の瞬間。
 ぱんっ、と乾いた音が玄関ホールに響いた。
 侍女の頬が、大きく横へ弾かれる。

 「エ、エリザ様……?」
 「何をしているのよ!」

 エリザは肩で息をしながら、侍女を睨みつけた。

 「こんなこともまともにできないの!?」
 「申し訳、ございません……」
 「謝れば済むと思ってるの!?」

 甲高い声が、広い玄関ホールに響き渡る。
 何事かと、近くにいた使用人たちが足を止めた。
 その視線が集まることさえ、今のエリザには癇に障った。

 「エリザ?」

 騒ぎを聞きつけたベアトリスが、奥から姿を現した。

 「いったい、どうしたの?」

 エリザが振り返る。

 「全部……」
 「え?」
 「全部、お姉様が奪っていくの!」

 突然の叫びに、辺りが静まり返った。

 「エリザ、何を言っているの?」
 「本当なら、ミューゼル公爵夫人になって、テオドア様の隣にいたのは私だった! 皆から羨ましがられるのも、特別だと言われるのも――全部、私だったはずなのに!」
 
 エリザは声を張り上げた。

 「お姉様なんて、醜い落ちこぼれのはずだったのに……!」
 「エリザ!」

 ベアトリスの制止も聞かず、エリザは踵を返した。
 使用人たちの間を抜け、足早に階段を上っていく。
 そのまま自室へ飛び込むと、乱暴に扉を閉めた。

 「……何よ」

 茶会で聞いた言葉が、頭から離れない。
 ――本当にお似合いのご夫婦ね。

 「何がお似合いよ……」

 エリザは苛立たしげにドレスの裾を握りしめた。

 「全部……私のものだったのに」

 ミューゼル公爵夫人という立場も。
 テオドアの隣も。
 周囲から向けられる羨望も。

 本来なら、すべて自分のものになるはずだった。
 それなのに今は、何も持っていなかったはずのシエラが、そのすべてを手にしている。

 「お姉様さえ……」

 鏡台の前に立ち、自分の顔を見つめる。

 「また、元に戻ればいいのよ」

 長い前髪で顔を隠し、誰からも見向きもされなかった頃の姉に。

 そうすれば、もう誰もシエラを羨んだりしない。
 テオドアだって、きっと――。
 そんな考えに囚われ始めてから、エリザは人知れずあるものを探すようになった。

 人の容姿を変える魔術具。
 それも、普通の店では決して扱われないようなものを。