神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 王都の一角にある侯爵家では、若い令嬢たちを招いた茶会が開かれていた。
 色とりどりの菓子が並ぶテーブルを囲み、令嬢たちは楽しげに会話を弾ませている。

 「そういえば、皆さまは最近のミューゼル公爵をご覧になって?」

 一人がそう切り出すと、すぐに別の令嬢が身を乗り出した。

 「もちろん。私、最初は同じ方だと分からなかったわ」

 「本当に以前とは別人みたいですものね」

 くすくすと笑い声が上がる。

 「最近では、魔術の腕も相当なものだという噂よ」
 「無詠唱で魔術を使っているところを見た方がいるのでしょう?」
 「それも、一度や二度ではないそうよ」
 「まあ。それでは今まで〝魔術が不得手な公爵様〟なんて言われていたのは何だったのかしら」
 「それであのご容姿でしょう? しかもミューゼル公爵家の当主だなんて……」

 令嬢の一人が、うっとりと頬へ手を添える。

 「奥様が羨ましいわ」

 カップを持つエリザの指先が、ぴくりと動いた。
 けれど、誰も気づかない。

 「その奥様も、最近ずいぶん評判よね。とても珍しい力をお持ちなのだとか」
 「第一王子殿下の長年のご不調まで改善されたそうよ」

 次々と聞こえてくる言葉に、エリザは無意識のうちにカップの取っ手を強く握った。

 「私、最初は魔力調律に近い力なのかと思っていたのだけれど……」

 そこで、一人の令嬢が思い出したようにエリザを見る。

 「そういえば、エリザ様は魔力調律をお持ちでしたわよね?」

 一斉に視線が集まった。

 「実際のところ、似たものなのかしら?」
 「……さあ」

 エリザは笑みを崩さぬよう答えた。

 「姉にそんな力があったなんて、私も知りませんでしたもの」
 「まあ、そうなの?」
 「ええ。昔から魔力も少なくて……少なくとも私が知る限り、特別な力なんて何も――」

 そこまで言って、エリザははっとした。
 これ以上強く否定すれば、まるで自分がシエラを妬んでいるようではないか。
 すぐに口元へ笑みを戻す。

 「ですから、私も驚いているんです。何かの勘違いではないかしらと思って」
 「けれど、グランツ卿まで認めているのでしょう?」
 「それに、魔力調律よりも優れた力なのではないか、なんておっしゃる方までいるそうよ」
 
 「……え?」

 思わず声が漏れた。
 令嬢たちは気にした様子もなく、楽しそうに話を続ける。

 「ミューゼル公爵もすっかりお元気になられて、その奥様にはそんな特別な力まであるなんて……本当にお似合いのご夫婦ね」

 エリザの笑みが、かすかに引きつる。

 「……そうですわね」

 膝の上で、ドレスを強く握りしめた。

 ――お似合い?
 お姉様と、テオドア様が?

 (……私よりも?)
 
 自分がいらないと言った男は、今や誰もが羨む存在になっている。
 その隣に立つのは、ずっと見下してきた姉。
 しかも今度は、自分だけの特別だったはずの魔力調律さえ、その姉に上回られようとしている。

 (……何よ、それ)

 爪が、掌へ食い込む。

 (そんなの、聞いてない)