神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 シエラはルシアンを屋敷の中へ招き入れ、そのまま施術室へ案内した。
 部屋へ入るなり、ルシアンはぐるりと室内を見回す。
 
 「へえ。前に来た時より、ずいぶん本格的になってるな」
 「施術用のお部屋として、旦那様が用意してくださったんです」
 「へえ。愛されてますね」
 「えっ? いや、そんな……」
 
 思いがけない言葉に、シエラは目を丸くした。
 昨夜のことまで頭をよぎり、どう答えればいいのか分からなくなる。
 そんなシエラを見て、ルシアンはくすりと笑った。
 
 「少なくとも俺には、そう見えるって話です」
 
 軽い調子でそう言うと、ルシアンは用意された椅子へ腰を下ろした。
 シエラはまだ少し引っかかるものを感じながらも、その後ろへ回る。
 
 「では、少し見せてくださいね」
 「お願いします、公爵夫人」
 
 そうして、二度目の施術(ヘッドスパ)が始まった。
 以前に比べれば、触れた感触はずいぶん柔らかくなっていた。
 
 「前よりずっといいですね」
 「でしょう?」
 
 ルシアンが得意げに笑う。
 
 「頭痛も、ほとんど出なくなりました。前は仕事が立て込むとすぐ痛くなってたんですけど」
 「それならよかったです」
 
 嬉しくなって笑うと、ルシアンもにこりと笑い返した。
 
 「やっぱりいいなあ、公爵夫人」
 「え?」
 「腕もいいし、可愛いし」
 「か、可愛い……?」
 
 思わぬ言葉に目を瞬く。
 ルシアンは面白そうに笑うと、不意にシエラの手を取った。
 
 「どうです? 今度、俺とデートでも」
 「で、デート!?」
 「もちろん、テオドアには内緒で」
 
 冗談めかしたその声が落ちた、次の瞬間。
 
 「……何をしている」
 
 低い声が、施術室の入口から響いた。
 
 「旦那様」
 
 振り向けば、扉のそばにテオドアが立っていた。
 ルシアンが「あ」と声を漏らす。
 
 「テオドア、これは――」
 
 最後まで言い終えるより早く、テオドアが片手を軽く降る。
 すると、ルシアンの身体がふわりと宙へ浮いた。

 「うわっ!?」
 
 シエラの手から強制的に引き離され、そのまま床から一メートルほどの高さでぴたりと止まる。
 
 「ちょいちょいちょい! 人をそんな簡単に吊り上げないでくれない!?」
 
 テオドアは何も答えない。
 ただ、冷えた紫の瞳でルシアンを見上げていた。
 数秒後、魔術が解かれ、ルシアンの足がすとんと床へ戻る。
 
 「……ったく」
 
 服の乱れを整えながら顔を上げたルシアンは、怒るどころか、むしろ面白そうに口元を吊り上げた。
 
 「それにしても……ずいぶん分かりやすくなったな」
 
 にやにやと笑うルシアンへ、テオドアは無言のまま片手を持ち上げる。
 
 「待った待った、冗談だって」
 
 ルシアンは慌てて両手を上げた。

 「ていうか、そんなぽんぽん無詠唱魔術を使わないでくれない? 普通はそう気軽に使えるもんじゃないからね、それ」
 
 テオドアはしばらく冷たい目を向けていたが、やがてゆっくりと手を下ろす。
 
 「最初から余計なことをするな」
 「はいはい」
 
 ルシアンは笑いながら肩を竦める。
 二人のやり取りについていけず、シエラはただ何度も瞬きをした。