神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 テオドアにヘッドスパを行う、いつもの時間が近づいた頃。
 シエラは自室を出ようとして、ふと鏡台へ目を向けた。
 
 引き出しの中には、昼間にもらった髪飾りがしまってある。
 ほんの一瞬迷ったものの、わざわざもう一度つけていくのも妙な気がして、そのまま扉へ向かった。
 
 けれどテオドアの寝室へ向かう間も、昼間のことが頭から離れてくれない。
 思い出すたびに、胸のあたりがそわそわと落ち着かなかった。
 
 (別に、いつも通りヘッドスパをするだけなんだから)
 
 そう自分に言い聞かせ、シエラはテオドアの寝室の扉を叩いた。
 
 「旦那様、失礼します」
 「ああ」
 
 いつもと同じように迎えられ、シエラは寝台へ向かう。
 先に腰を下ろしたテオドアの後ろへ回り、自分もいつもの位置についた。
 
 「今日はたくさん歩きましたし、疲れましたよね。しっかりめにほぐしましょうか」
 
 返事がない。
 
 「旦那様?」
 
 不思議に思って顔を覗き込むと、テオドアはじっとこちらを見ていた。
 綺麗な紫色の瞳。
 これまで何度も見てきたはずなのに、なぜか今日は落ち着かない。
 昼間のことを意識しているせいだろうか。
 
 「……どうしました?」
 「君は」
 
 テオドアがこちらへ身体を向ける。
 その動きに合わせて、寝台がぎしりと小さく軋んだ。
 
 「本当に、何も気にしていないんだな」
 「何を、ですか?」
 
 意味が分からず、シエラは首を傾げた。

 ここへ来ることは、もうすっかり日常になっている。
 眠れないテオドアを眠らせる。そのために寝室へ入り、寝台へ上がり、頭に触れる。
 
 最初の頃こそ緊張していたけれど、今では何度繰り返したか分からない。
 そんなシエラを見つめたまま、テオドアが小さく息を吐いた。
 
 「君はいつも、無防備に俺の寝所へ上がってくるが」
 「だって、ヘッドスパをするためですから」
 「そういう話じゃない」
 「……?」
 
 ますます分からない。
 すると、テオドアの目が僅かに細められた。
 
 「……俺も男だということを、少しは考えた方がいい」
 「え……?」
 
 その言葉の意味を理解するより早く、手首を掴まれた。
 
 「旦那様?」
 
 ぐっと引かれる。
 突然のことに身体の均衡を崩し、シエラはそのまま寝台へ倒れ込んだ。
 
 「……っ」
 
 柔らかな寝具へ背中が沈む。
 驚いて目を開けば、すぐ上にテオドアがいた。