神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 その後もいくつかの店を見て回り、昼時になると、二人で近くの店へ入って食事をとった。
 テオドアと一緒に買い物をするのも、こうして外の店で食事をするのも初めてだ。
 どれもシエラにとっては新鮮で、楽しいことばかりだった。

 大通りを歩いていると、道端に並んだ露店のひとつが目に留まる。
 
 「あ……」
 
 色とりどりのリボンや髪飾りが、小さな台の上に所狭しと並べられていた。
 その中に、淡い翡翠色のリボンに、真珠色の小花をあしらった髪飾りがあった。
 控えめな意匠ながら、春の光を閉じ込めたような柔らかな色合いが目を引く。
 
 「可愛い……」
 
 思わず足を緩めると、隣を歩いていたテオドアも立ち止まった。
 
 「これか?」
 「え?」
 
 テオドアが、シエラの視線の先にある髪飾りを指した。
 
 「はい。でも、見ていただけで――」
 「これをくれ」
 「旦那様!?」
 
 引き止める間もなく、テオドアは店主へ代金を渡してしまう。

 ほどなくして、髪飾りがシエラへ差し出された。

 「ほら」
 「……私に?」
 「他に誰がいる」
 「でも、本当に見ていただけで……」

 そう言いながらも、手のひらに乗せられた髪飾りを見つめるシエラの頬は、自然と緩んでいた。
 淡い翡翠色のリボンに、真珠色の小花があしらわれている。
 近くで見ると、やはり可愛らしい。

 「……ありがとうございます。大切にしますね」
 「ああ」

 しばらく嬉しそうに眺めていたシエラだったが、ふと思い立って髪飾りを手に取った。

 耳の上あたりの髪を軽くまとめ、そこへ髪飾りを留める。
 鏡がないため、きちんとつけられているのかは分からない。
 シエラは少し照れながら、テオドアを見上げた。

 「……どうですか?」

 テオドアは何も答えなかった。
 ただ、じっとシエラを見つめたあと、ゆっくりと手を伸ばしてくる。

 「え……」

 長い指が、そっと頬へ触れた。
 予想していなかった感触に、シエラの心臓がどきりと跳ねる。

 そのまま指先が頬をなぞるように滑った。

 「だ、旦那様……?」

 思わず息を止めたところで、テオドアが指先を離す。

 「……まつげがついていた」
 「え?」

 シエラは目を瞬かせた。
 その言葉には、どこか聞き覚えがあるような——馬車の中で、シエラがテオドアにしたことと同じだった。
 けれど何かを言う前に、テオドアの視線がもう一度髪飾りへ向いた。

 「……似合っている」
 「……!」

 不意打ちのように告げられ、シエラの頬が一気に熱くなる。

 「そ、そうですか」
 「ああ」

 触れられた頬も、胸の鼓動も、なかなか元に戻ってくれない。

 (旦那様、一体どうしちゃったんですか?)

 それとも、変になったのは自分の方なのか——シエラには分からなかった。