神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 次に訪れたのは、香料を扱う店だった。

 扉を開けた瞬間、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
 壁際には大小さまざまな小瓶が並び、花や果実、薬草から作られた香料がずらりと揃っていた。

 「わあ……」

 シエラは思わず目を輝かせる。

 「こんなに種類があるんですね」

 店員から説明を受けながら、シエラはいくつかの香りを順番に試していく。
 
 「これは少し甘すぎるかな……。こっちは落ち着くけど、旦那様にはどうだろう」
 
 ぶつぶつと呟きながら選んでいると、柔らかな花の香りがする小瓶が目に留まった。
 
 「これ、好きかも」
 
 鼻先へ近づけてみる。
 ほのかに甘いけれど、強すぎない。眠る前にも使いやすそうだった。
 
 「旦那様も嗅いでみてください」
 「ああ」
 
 シエラはテオドアのそばへ寄ると、小瓶をその鼻先へ差し出した。
 
 「どうですか?」
 
 返事がない。
 
 「旦那様?」
 
 不思議に思って顔を上げる。
 テオドアは香料ではなく、なぜかシエラの顔を見ていた。
 
 「……近い」
 「え?」
 
 言われて初めて、自分たちの距離に気づく。
 香りを嗅いでもらおうと近づいたせいで、顔同士が思っていた以上に近い。
 
 「わっ、ご、ごめんなさい!」
 
 シエラは慌てて一歩下がった。
 
 「香りを嗅いでもらおうと思って……」
 「分かっている」
 「それで、どうでした?」
 「……よく分からなかった」
 「ええ?」
 
 せっかく試してもらったのに。
 そう思って再び近づこうとした途端、すぐに止められた。
 
 「いや、それでいい」
 「まだ香り、嗅いでないですよね?」
 「君が気に入ったなら、それでいい」
 「旦那様も使うのに……」
 
 首を傾げたものの、テオドアはそれ以上試すつもりはないらしい。
 
 (やっぱり今日、ちょっと変だわ)
 
 朝から何度そう思っただろう。
 けれど理由を尋ねても、きっとまた「何でもない」と言われる気がした。
 シエラはひとまずその香料を購入することにして、別の棚へ目を向けた。