神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 しばらくして、馬車がゆっくりと止まった。

 「着いたぞ」
 「はい」

 テオドアに続いて馬車を降りたシエラは、目の前にそびえる建物を見上げ――思わず目を丸くした。

 「……ここですか?」
 「ああ」

 大通りの一角に建つ、ひときわ重厚な店だった。
 大きな硝子窓の向こうには、上質な寝具や調度品が美しく並べられている。
 どう見ても、シエラが想像していたような気軽な店ではない。

 「私、もっと普通のお店を想像してたんですけど……」
 「施術に使うものを探したいんだろう?」
 「そうですけど……」

 (さすが公爵様。お買い物の基準まで違う……)

 シエラが戸惑っている間にも、店の扉が開く。
 どうやら事前に連絡が入っていたらしく、支配人らしき男性がすぐに深々と頭を下げた。
 
 「ミューゼル公爵閣下、公爵夫人。お待ちしておりました」
 「……お待ち?」
 
 シエラが小声で繰り返すと、テオドアは何でもないことのように答えた。
 
 「アルバに先触れを出させてある」
 「いつの間に……」
 
 自分としては、少し買い物へ出るくらいのつもりだった。
 どうやらテオドアにとっての「買い物」とは、随分規模が違うらしい。
 
 案内されるまま店内へ入ると、シエラの目は自然と並べられた品々へ向かった。
 柔らかなクッションに、肌触りのよい布。首や腰を支えるために形を工夫された寝具もある。
 
 「わあ……」
 
 思わず声が漏れた。
 
 「こういうの、初めて見ました」
 
 ひとつずつ見ているうちに、小ぶりのクッションが目に留まる。
 手に取ってみると、硬すぎず柔らかすぎず、ほどよく弾力があった。
 
 「これ、いいかも」
 
 何度か両手で押して確かめる。
 
 「旦那様、少し試してもらってもいいですか?」
 「俺が?」
 「はい。旦那様が一番たくさん施術を受けていますから」
 
 テオドアが近くの長椅子へ腰を下ろす。
 シエラはその後ろへ回り、クッションを首元へ当てた。
 
 「どうです?」
 「……悪くない」
 「本当ですか?」
 
 位置を少しずらして、首の角度を確かめる。
 
 「これなら、ヘッドスパの時も楽に受けてもらえそうです」
 
 そう呟いた途端、テオドアが支配人へ視線を向けた。
 
 「では、あるだけ準備してくれ」
 「えっ」
 
 シエラは勢いよく顔を上げた。

 「あの、旦那様? 一つで十分です!」
 「だが、気に入ったんだろう。予備があった方がいい」
 「だからって、在庫全部買う必要はないですよ!」

 必死に訴えると、テオドアは少し考えるように黙り込んだ。
 
 (分かってくれた……?)

 ようやく折れてくれたのだと、ほっとした次の瞬間。
 テオドアは店内に並んだクッションへ視線を巡らせた。

 「では、ここに置いてあるだけ」
 「全然譲ってませんよ!」