神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 「……嫌です」

 気づけば、言葉がこぼれていた。
 テオドアがシエラを見る。

 「そんなふうに、自分がいなくなることを前提に話さないでください」
 「シエラ」
 「国を守ることが大事なのは分かります。清浄の天蓋がなくなったら、たくさんの人が困ることも」

 それでも、とシエラは首を振る。

 「だからって、旦那様が犠牲になっていい理由にはならないでしょう?」

 テオドアは何も言わない。
 シエラは寝台の上に置かれていた彼の手へ、自分の手を重ねた。

 「私は、旦那様にちゃんと生きていてほしいです」

 その一言だけは、迷わず言えた。

 「眠れなくて辛いなら、私が眠らせます」
 「だから、一人で全部背負わないでください」

 握った手に、そっと力を込める。
 少しだけ涙の滲んだ瞳で、微笑んだ。

 「だって私は――旦那様の妻なんですから」

 *

 その言葉は、思いがけないほど深くテオドアの胸へ沈んだ。

 国のために生きろと言われたことはある。
 ミューゼル家の当主として責務を果たせとも、国を守り続けろとも。
 けれど、役目も血筋も関係なく、ただ自分自身に生きてほしいと願われたことは、一度もなかった。

 「今日はもう、考えるのをやめましょう」
 「大丈夫です。今日もちゃんと——極上の眠りをお届けしてみせますから」

 シエラの手が、再び髪へ触れる。
 慣れ親しんだはずのその温もりが、今夜はなぜかひどく胸に沁みた。

 テオドアは目を閉じる。

 眠りたいから、この手を求めているのではない。
 救われた恩があるからでも、妻だからでもない。
 
 ただ、シエラだから。
 この声をこれからも聞いていたいし、笑っていてほしい。その笑顔を見るたび、自分まで満たされていく。
 いつの間に、こんなにも大切になっていたのだろう。
 もう、その感情の名を知らないふりはできなかった。

 ――俺は、シエラを愛している。