神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 テオドアの寝室には、アルバの指示で用意された湯と清潔な布が置かれていた。
 汚れた服から寝間着へ着替えたテオドアは、寝台へ身体を預けている。
 その傍らに腰掛けたシエラは、湯に浸した布を固く絞った。

 「じっとしててくださいね」

 テオドアが何か言うより先に、シエラは頬へ布を当てた。
 土埃を拭い、こめかみから額へとそっと滑らせる。

 近くで見ると、やはり顔色はひどく悪かった。
 玄関では気づかなかったが、目元にも疲労の色が濃く残っている。

 「冷たいですか?」
 「いや」
 「痛いところは?」
 「ない」
 
 疑わしげに覗き込むシエラに、テオドアが眉を寄せた。
 
 「……近い」
 「ちゃんと確認してるんです」

 シエラは気にした様子もなく、頬に残った汚れを丁寧に拭っていく。

 「ここも少し汚れてますね」

 そう言って、今度は首元へ布を滑らせた。
 寝間着の襟を少しだけずらし、肌についた汚れをそっと拭う。

 その瞬間、テオドアの肩が僅かに強張った。

 「……そこまでしなくていい。自分でやる」
 「だめです。今の旦那様の仕事を思い出してください」
 
 きっぱり言い切ると、テオドアはそれ以上何も言わなかった。

 シエラは首筋に沿って布を動かしながら、改めてその身体を見つめる。
 以前よりずっと健康的になったとはいえ、今夜は明らかに消耗が激しい。

 「呪詛師と、戦ったんですか?」
 「ああ。無事捕らえた。こちらは全員怪我もない」
 
 テオドアが息を吐く。
 
 「ただ……少し、魔力を使いすぎただけだ」
 「じゃあ、なおさら癒しが必要ですね」

 シエラは湯と布を脇へ置くと、テオドアの頭側へ回り込んだ。
 テオドアが、横になったままシエラを見上げる。
 
 「だが、今日はもうこんな時間だ。これ以上は君に負担が——」
 「しー、です」

 シエラはそう言って、テオドアの口元へ人差し指をそっと添えた。

 「こんな状態の旦那様を放っておくなんて、私のポリシーに反しますから」

 その言葉に、テオドアがふっと笑みをこぼす。

 「またそれか」
 「はい。ということで、ぐっすり眠ってしっかり休みましょう!」

 テオドアはもう反論せず、大人しく目を閉じた。
 シエラはその頭へ手を伸ばし、黒髪の間へ指を差し入れる。

 触れた感触は、以前よりずっと柔らかい。
 最初の頃のような、石のような張りもない。魔力の流れも、前より滑らかになっている。
 それなのに――何かがおかしい。

 (外に、引っ張られてる……?)

 身体の内側にある何かが、絶えずどこかへ流れていく。
 その感覚が、指先にはっきりと伝わってきた。

 (これって……魔力?)

 迷った末に、シエラは手を止めないまま口を開いた。

 「旦那様」
 「なんだ」
 「これ、私の勘違いだったらすみません」

 言葉を選びながら、慎重に続ける。

 「旦那様の魔力が……どこかへ流れていってるように感じるんです」