神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 そこへ、足早な靴音が近づいてくる。

 「旦那様」
 駆けつけたアルバは、テオドアの姿を見るなり表情を引き締めた。

 「すぐに湯と清潔な布を。着替えも用意してください」

 その声に、近くにいた使用人たちが一斉に動き出す。
 ひとまず屋敷の者たちへ引き渡せたことで安心したのか、ルシアンもようやく肩の力を抜いた。
 グランツは後処理のため現場に残っており、テオドアをここまで送り届けてくれたのはルシアンだった。
 
 「こいつ、今日は相当無茶してるんで。ちゃんと休ませてやってください」
 「もちろんです」

 シエラが頷くと、ルシアンはテオドアの肩からそっと手を離した。
 代わるように、シエラがすぐその身体を支える。
 支えた身体は、思っていた以上に重かった。

 「じゃあ、俺は王宮へ戻る」

 数歩進んだところで、ルシアンがふと足を止めた。

 「……ああ、それと」

 振り返った視線が、まっすぐテオドアへ向く。

 「清浄の天蓋のこと。今度ちゃんと聞かせろよ」

 シエラは目を瞬かせた。

 (清浄の天蓋……?)

 もちろん、その名は知っている。
 けれどどうして今、その話が出てくるのだろう。
 テオドアは答えを濁すように、ルシアンから視線を外した。

 「……そのうちな」
 「絶対だからな」

 念を押し、ルシアンは今度こそ屋敷を後にした。

 閉じた扉を見送るや否や、シエラはテオドアへ向き直る。

 「旦那様。今日はもう、何もしないでください」
 「……少し休めば問題ない」
 「問題あります」

 間髪を入れずに返す。

 「旦那様、前に私へ言いましたよね。大人しくしていることも仕事だって」

 「……覚えていたのか」
 「もちろんです」

 シエラはきっぱりと言い切った。

 「なので今夜の旦那様のお仕事は、ちゃんと休むことです」

 反論を許すつもりはない。
 テオドアは何か言い返しかけたものの、シエラの顔を見て諦めたらしい。

 「……分かった」

 ようやく素直な返事が返ってきて、シエラの表情も少しだけ和らいだ。