神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 馬車は王都の中心部を抜け、人通りの少ない街道を進んでいた。

 テオドアの向かいの席にはグランツ。その隣にはルシアンと、もう一人の宮廷魔術師が座っている。
 普段は軽い笑みを浮かべていることの多いルシアンも、今日は窓の外へじっと神経を尖らせていた。

 ここ数日、グランツの指揮のもと、テオドアたちは術者の痕跡を追い続けてきた。
 その中心となったのが、僅かな残留魔力からでも持ち主特有の癖を見分けられるルシアンだった。
 何度痕跡を断たれても、彼が細い糸を拾い直し、ここまで繋いできたのだ。

 「……まだ残ってるな」

 ルシアンが窓際へ片手を伸ばす。
 指先に淡い光が集まり、細い糸のように空中を揺らめいた。

 「かなり薄いけど、間違いない。この先だ」
 「随分と用心深い相手だったな」

 テオドアが言うと、ルシアンは小さく肩を竦めた。

 「ああ。何度も痕跡を消してるし、途中にはわざと別方向へ誘導した跡まであった」
 「それでも見失わなかったわけか」

 もう一人の宮廷魔術師が感心したように言う。
 するとルシアンは、すぐにいつもの軽い笑みを浮かべた。

 「まあ、こういうのは得意だからな」

 グランツは短く息を吐いた。

 「口を動かす余裕があるなら、最後まで気を抜くな」
 「分かってますって」

 返事こそ軽いが、ルシアンの目はすぐに鋭さを取り戻した。

 しばらくして、その表情が変わる。

 「……近い」

 車内の空気が、すっと張り詰めた。

 「どの辺りだ」
 「このまま西。もうすぐだ」

 街道の先には、すでに王都の建物はほとんど見えない。
 代わりに、木々の生い茂る一帯が広がっていた。

 ルシアンが再び目を閉じ、指先へ意識を集中させる。
 淡い光が一度揺れたあと、はっきりと一方向へ伸びた。

 「……あそこだ」

 ほどなくして馬車の速度が落ちる。
 やがて完全に止まると、四人は順に外へ降りた。
 
 少し離れた場所には、木々に隠れるようにして古びた石造りの作業小屋が建っていた。
 壁には蔦が這い、窓の一部は割れたまま放置されている。

 それほど大きな建物ではない。
 外から見れば、とうに使われなくなった倉庫か作業場にしか見えなかった。
 だが、ルシアンは建物を見た瞬間、表情を引き締めた。

 「間違いない。この中にいる」

 グランツが周囲を見回す。

 「配置につけ。逃走経路を塞ぐ」
 「了解」

 もう一人の宮廷魔術師が真っ先に動き、建物の裏手へ回る。
 ルシアンも周囲に意識を巡らせ、ほかに人の気配がないか探っていく。

 グランツはそれを確認すると、テオドアへ目を向けた。

 「行くぞ」
 「はい」

 扉を開けた瞬間、湿った空気と、鼻につく薬草の匂いが流れ出してきた。