神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 アーヴィンの容体がひとまず落ち着いたことを確認し、シエラたちは部屋をあとにした。
 王宮の玄関口まで来たところで、グランツが足を止める。
 その間もシエラは、テオドアの腕の中に抱き上げられたままだった。

 「今日は本当に助かった」

 グランツが改めてシエラへ向き直る。

 「まさか、あれほど厄介な呪詛に触れながら、殿下の状態をあそこまで落ち着かせるとは思わなかった。大したものだ」
 「いえ……。アーヴィン殿下が、少しでも楽になっていればいいんですけど」

 穏やかな寝息を立てていたアーヴィンの姿を思い出しながら、シエラは続ける。

 「かなり楽にはなっていると思います。でも……まだ全部なくなった感じではないんです」
 「ああ。転嫁そのものが残っている以上、これで終わりとはいかないだろうな」

 グランツの表情が引き締まる。

 「術者の痕跡についてはこちらでも調べる。テオドア、お前にも近いうち動いてもらうことになるかもしれん」
 「承知しました」

 テオドアは迷いなく頷いた。

 「詳しいことが分かり次第、知らせる。それまでは無理に動かず待っていてくれ」
 「分かりました」
 「殿下が目を覚まされた後の状態についても、改めて知らせよう」
 「お願いします」

 シエラが腕の中からぺこりと頭を下げると、グランツはどこか穏やかに目を細めた。
 それから、シエラを抱えたままのテオドアへ視線を移す。

 「テオドア。本当にいい伴侶を得たな」

 その言葉に、テオドアはすぐには答えなかった。
 腕の中のシエラへ視線を落とし、ほんのわずかに目を細める。

 「……私には、勿体ないほどです」
 「旦那様……?」

 思いがけない言葉に、シエラはテオドアを見上げた。
 勿体ない。その言い方が、なぜか少しだけ胸に引っかかった。
 
 けれど、テオドアはそれ以上何も言わない。
 そんな彼を見て、グランツが小さく息を漏らした。

 「まったく。お前は昔から、そういうところがあるな」
 「……何のことでしょう」
 「まあいい」

 グランツはそれ以上追及せず、再びシエラへ目を向ける。

 「二人とも、今日はもう十分働いた。帰ってゆっくり休みなさい」
 「はい。ありがとうございます」
 「殿下のことは任せておけ」

 そう言い残し、グランツは王宮の奥へと戻っていった。
 シエラたちも、迎えの馬車へ向かう。
 
 「あの、旦那様。もう自分で歩けます」

 テオドアは答えず、シエラを抱えたまま王宮の外へと歩いていく。

 「……聞こえてますか、旦那様?」
 「駄目だ」
 「でも……」
 「今は大人しくしていることが、君の仕事だ」

 あまりにも真面目に言い切られ、シエラはとうとう諦めた。
 結局、迎えの馬車へ着くまで、その足が地面につくことはなかった。