神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 シエラが口を開くと、室内にいた者たちの視線が一斉に集まった。
 
 「……魔力調律が使えるのですか?」

 医師の問いに、シエラは首を振る。

 「魔力調律はできませんが、もしかしたらお役に立てるかもしれません」
 「そのために、今日も王宮に来たんです」
 
 そう言って、シエラは医師へ向き直る。

 「おかしいと思ったら、すぐに止めていただいて構いません」
 
 医師は寝台のアーヴィンとシエラを見比べ、しばらく考えた末にゆっくりと頷いた。

 「……分かりました。身体に負担をかけない範囲でお願いします」
 「ありがとうございます」

 寝台のそばへ腰を下ろすと、テオドアもすぐ隣までやってきた。何も言わないものの、いつも以上に険しいその表情から、アーヴィンの状態を案じていることが伝わってくる。
 シエラは一度だけテオドアを見上げてから、改めてアーヴィンへ向き直った。
 まずは、本当に触れて確かめるだけ。

 そう心の中で言い聞かせ、シエラはアーヴィンの額へそっと指先を添えた。
 するとすぐに、これまでテオドアたちへ施術した時にも感じた、筋肉の張りとは違う感覚が指先へ伝わってくる。
 意識を向ければ、それは身体の奥を巡るように動いていた。
 
 (これって……もしかして、魔力の流れ?)

 シエラは焦らず、その感覚を慎重に辿っていく。
 アーヴィンの身体を巡る流れは、あちこちで何かに阻まれるように滞っていた。頭から首、その先へと辿っていくほど、似たような引っかかりがいくつも見つかる。
 
 (……詰まってる?)
 
 シエラにはそれが、身体の奥まで凝り固まった酷い凝りのように感じられた。
 
 けれど、それだけではない。
 さらに意識を向けていくうちに、これまで誰に触れた時にもなかった、妙な感触が混じっていることに気づく。
 うまく言葉にはできない。
 ただ、アーヴィン自身のものだけではない何かが、流れの中へ紛れ込んでいるような――そんな奇妙な感覚だった。

 「……これは、かなり詰まっていますね」

 思わず零れた言葉に、グランツが眉をひそめる。

 「詰まっている?」
 「はい。でも……普通の詰まり方じゃありません」

 シエラは指先を離さないまま、感じ取ったものをどう説明すればいいのか考える。

 「なんというか……殿下ご自身のものじゃない何かが、混ざっているような……」

 その言葉を口にした途端、傍らにいたテオドアとグランツの表情が同時に険しくなった。

 「シエラ」

 テオドアの低い声が耳に届く。
 けれど、その時シエラは、ひときわ強く引っかかる場所に気づいていた。
 そこだけ、他とは比べものにならないほど重く、硬く凝り固まっているように感じる。

 (ここ……?)

 もし、この部分が少しでも緩めば。
 いつもの施術と同じように、ごくわずかに働きかけるだけなら――。
 そう考え、指先へほんの少し力を込めた。
 
 ――その瞬間だった。
 ぞっとするほど冷たい感触が、指先から腕へ一気に駆け抜けた。

 「……え?」

 反射的に手を引こうとする。
 けれど、その前に、アーヴィンの身体の奥で何かが動いた。
 それまで静かに沈んでいたものが、触れられたことに気づいたかのように蠢き、こちらへ向きを変える。
 背筋にぞわりと悪寒が走った。

 「シエラ、離れろ!」

 テオドアの鋭い声が響く。けれど、もう遅かった。
 次の瞬間、アーヴィンの身体から禍々しい魔力が一気に弾け、凄まじい勢いでシエラへと押し寄せる。

 「シエラ!」

 黒い奔流が、まっすぐシエラへ襲いかかった。