神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 カーティス伯爵家へ戻ったエリザは、ひどく荒れていた。
 自室へ閉じこもった直後から、扉の向こうでは何かが床へ叩きつけられる音が続いている。

 ガシャン、と陶器の割れる音。
 続いて、何か重いものが倒れる鈍い音。

 廊下に控えていた使用人たちは怯え、誰一人として近づこうとしなかった。

 「どうして……!」

 部屋の中で、エリザが荒々しく息を吐く。

 視界の端に入った大きな花瓶を掴むと、そのまま床へ叩きつけた。

 ガシャーンッ!

 甲高い音とともに花瓶が粉々に砕け、水と花が絨毯の上へ散らばる。
 エリザは肩で息をしながら、震える手を握りしめる。

 『俺には、君だけだ』
 あの言葉が、何度も頭の中で蘇った。

 「どうして、お姉様なのよ……!」

 本来なら、自分のものになるはずだった。
 ミューゼル公爵夫人の地位も、テオドアも。

 全部、全部、エリザのもの。
 それを、シエラが奪ったのだ。

 エリザは砕けた花瓶を睨みつける。

 「絶対に許さない……」

 その声は、これまでの甘い笑みからは想像もできないほど低かった。
 
 「……シエラ……」

 そして、その唇がゆっくりと吊り上がり、不気味な笑みを形作った。

 「この私を侮辱したこと――後悔させてあげるから……」