神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 応接室へ入ると、すでにエリザとベアトリスが長椅子に腰掛けていた。
 シエラの後ろにはマリーが控え、アルバもそのまま室内に残る。

 「久しぶりね、お姉様」

 エリザはにこやかに微笑んだ。

 「今日はどうしたの?」
 「あら。妹が姉の嫁ぎ先を訪ねるのに、何か理由が必要?」
 「そういうわけじゃ……」
 「それに、お姉様ったら最近ずいぶん有名になっているみたいじゃない」

 その言い方に、シエラはわずかに身構える。

 「宮廷魔術師の方々を次々に癒しているんでしょう? 特別な力を持っているんじゃないか、なんて噂まで流れているそうね」
 「それは……」
 「ねえ、一体どんな汚い手を使ったの?」
 「え……?」

 エリザは笑みを崩さないまま、首を傾げた。

 「だって、おかしいでしょう? お姉様にそんな力があるなんて」

 今度はベアトリスが口を挟む。

 「公爵家ほどの力があれば、いくらでもやりようはあるでしょうね。薬を使ったのか、魔術で誤魔化したのか。それとも――」
 「違います」

 シエラはきっぱりと遮った。

 「私は、そんなことしていません」

 一瞬、室内が静かになる。
 エリザの目が、猫のようにきゅっと細くなる。

 「ふうん? それなら一体、何をしているっていうの?」
 「ヘッドスパよ」
 「……へっどすぱ?」
 「頭や首まわりをほぐして、疲れをとるの」

 エリザは数秒、ぽかんとしたようにシエラを見つめた。
 やがて、ふっと鼻で笑う。
 
 「ばかみたい。そんなもので、宮廷魔術師の方々を治したっていうの?」
 「治したなんて言ってないわ。ただ、終わったあと楽になったと言ってくださっただけで――」
 「もういいわよ」

 エリザがそう言って、勝ち誇ったように笑った。

 「そんな言い訳しか出てこないんだから、やっぱり噂は嘘なんでしょう?」
 「だって、お姉様が特別なわけないもの」

 本気でそう信じている目だった。
 シエラが特別であることなど、ありえないと。

 「……噂のことは、私にはよく分からないけれど」

 シエラはゆっくりと口を開いた。

 「でも、私のヘッドスパを必要としてくれる人がいる。それだけは確かよ」

 エリザの笑みが、ほんの少しだけ歪む。
 隣のベアトリスが、そこで我慢ならないというように口を開いた。

 「公爵家に嫁いだからって、自分まで偉くなったつもり?」

 シエラを憎々しげに見つめるその瞳は、変わらない。
 
 「第一、何なの? その姿は。そんなふうに色気づいて……」

 ベアトリスはシエラを上から下まで見回すと、ひどく不快そうに顔を歪めた。

 「ああ、忌々しい」
 
 吐き捨てるような声だった。
 するとエリザは、いかにもシエラのためを思って忠告するような、優しげな笑みを浮かべた。

 「ほら、言ったでしょ? お姉様のその醜さは、周りを不幸にするの。今からでも遅くないわ。その顔を隠して——」
 「奥様は、醜くなんてありません」

 後ろから、はっきりとした声が飛んだ。
 振り返ると、マリーが一歩前へ出ていた。
 
 「マリー……?」
 「奥様は、とてもお綺麗です」

 いつもは穏やかなマリーの声に、珍しく強い意志が滲んでいる。