神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 午後のやわらかな日差しの中、シエラはマリーとともに庭園を歩いていた。

 少し先では、庭師のハロルドが片足を引きずりながら花壇の間を進んでいる。
 六十をいくつか過ぎたハロルドは、長年この屋敷の庭を任されているだけあって、植物のことなら何を尋ねてもすぐに答えが返ってくる。

 「奥様、こちらも今が見頃ですよ」

 ハロルドに招かれ、シエラは花壇を覗き込んだ。
 小さな白い花が、淡い黄色の花芯を囲むようにいくつも咲いている。

 「可愛い……。これは何という花ですか?」
 「カミツレです。香りがよくて、乾燥させれば茶にもできますよ」
 「お茶に?」
 「ええ。気持ちを落ち着かせたい時や、眠る前に飲む者もおります」

 その言葉に、シエラの目がぱっと輝いた。

 「眠る前……」

 しゃがみ込み、そっと花へ顔を近づけてみる。ほのかに甘く、どこかやさしい香りがした。

 (これを寝る前に飲んでもらったら、旦那様ももっと眠りやすくなるかしら) 

 最近は以前よりずっと元気になったけれど、もっとぐっすり眠れるなら、それに越したことはない。

 「ハロルドさん、これ、少し分けていただくことってできますか?」
 「もちろんですとも。ちょうど摘み頃のものがありますから、乾かしておきましょう」
 「ありがとうございます!」

 嬉しそうに笑うシエラを見て、隣にいたマリーがふっと頬を緩めた。

 「奥様、本当に旦那様のことばかり考えていらっしゃいますね」
 「え?」
 「お花をご覧になっていたと思ったら、もう旦那様の安眠のお話になっていますもの」
 「だって、せっかくここまで元気になったんだもの。もっとちゃんと眠れるようになってほしいじゃない」

 至極当然のこととして答えるシエラに、マリーの笑みがますます深くなる。

 「そうですね」
 「……何か、言いたげな顔ね?」
 「いいえ、何でもありません」

 どう見ても何か言いたそうなのに、マリーは楽しげに笑うだけだった。
 シエラが不思議そうに首を傾げた、その時。

 「奥様」

 庭園の向こうから呼びかける声がした。
 振り向くと、アルバがこちらへ歩いてくるところだった。いつもの穏やかな笑みを浮かべてはいるものの、その足取りは普段より少しだけ急いでいる。

 「アルバ。どうしたの?」
 「お客様がお見えです」
 「お客様?」

 今日は誰かが訪ねてくる予定などなかったはずだ。
 シエラが目を瞬くと、アルバは一拍置いてから告げた。

 「カーティス伯爵夫人と、エリザ嬢です」
 「……え?」

 シエラの表情が固まる。

 「先触れはございませんでした。突然お見えになりまして、現在は応接室でお待ちいただいております」

 先ほどまで穏やかだった気持ちが、一瞬で強張った。
 まさか二人が、この屋敷へ来るなんて――。