神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 それから間もなく、宮廷魔術師たちの間で奇妙な噂が広がり始めた。
 長年不調に悩んでいたグランツとルシアンが、ミューゼル公爵夫人の施術を受けたあと、見違えるほど調子を取り戻したという。
 
 さらに噂は尾ひれをつけ――“公爵夫人には、魔力調律とは異なる特別な力があるらしい”
 などと、と囁かれるようになっていった。

 まだ、誰もその力の正体を知らない。
 それでも人から人へと伝わった噂は、やがてカーティス伯爵家にまで届いた。

 「……お姉様に、特別な力?」

 そんなの、ありえない。
 エリザの手に力が入り、カップの中の紅茶が揺れた。

 向かいの長椅子に腰掛けたベアトリスが、不快そうに眉を寄せながら言う。

 「ええ。中には、通常の魔力調律以上なのではないかと言う者までいるそうよ」

 シエラには、エリザのような魔力調律の才もない。
 ただの醜い役立たずのはずだ。

 それでも、エリザの頭から離れないものがあった。
 黒い正装に包まれた長身に、驚くほど端正な顔立ち――夜会で見たテオドアの姿だ。

 「本当なら、妻になるはずだったのは私なのよ」

 苛立ちのままに、カップを叩きつけるように置く。
 反動で紅茶がこぼれ、白いテーブルクロスを汚した。

 「……私なら」

 特別なのは、シエラではなく自分のはずだ。
 これまで、ずっとそうだった。

 (私なら、もっと——)

 エリザはゆっくりと顔を上げた。

 「……ミューゼル家へ行きましょう」
 「エリザ?」
 「姉の嫁ぎ先を訪ねるくらい、当然のことでしょう?」

 そう口にすると、エリザはゆっくりと唇に笑みを浮かべた。

 「私の方がテオドア様にふさわしいって――証明してみせる」