神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

グランツはしばらく考え込んでいたが、やがて口を開いた。

 「もう少し例があれば、分かることも増えるだろう」
 「例?」
 「ああ。頭痛や不眠に悩む魔術師は、宮廷にも少なくない。夫人さえよければ、何人か紹介しても構わんか?」
 「私に……ですか?」

 思いがけない申し出に、シエラは目を瞬いた。
 けれど次の瞬間には、自分の施術を必要としている人がいるという事実に、心がわずかに弾む。

 「もちろんです。私でお役に立てるなら」

 答えてから、ふとここがミューゼル公爵邸であることを思い出した。
 シエラは隣のテオドアを見上げる。
 
 「旦那様……よろしいですか?」

 テオドアは少し考えたあと、静かに頷いた。
 
 「ああ。ただし、一度に大勢を相手にする必要はない。無理をしてまで引き受けるな」
 「はい」
 「それから、身元の分からない人間と二人きりになるのも駄目だ」

 言い聞かせるような口調に、シエラは素直に頷く。

 「分かりました」
 「必要なら、施術用の部屋も用意する」
 「えっ、そこまでしていただけるんですか?」
 「君が続けたいなら」

 あまりに当然のことのように告げられて、シエラの顔がぱっと明るくなった。

 「ありがとうございます、旦那様!」

 テオドアは一瞬だけシエラを見つめ、それからわずかに視線を逸らした。
 そんな二人を、ルシアンがどこか楽しげに見ていた。

 やがてグランツが、ふと思い出したようにテオドアへ目を向ける。

 「そういえば、お前自身の具合はどうなんだ」
 「以前よりは問題ありません」

 その隣で、シエラも頷く。

 「ここ最近で、健康状態はかなり改善しましたからね」

 ただ、シエラにはひとつだけ気になっていることがあった。

 テオドアに触れている時だけ、ときどき妙な感覚が指先に残る。
 グランツやルシアンの時にも感じた、筋肉の張りとは違う、もっと身体の奥にある何か。
 けれどテオドアの場合は、それが少しだけ違っていた。
 まるでどこかに小さな穴が開いていて、そこから絶えず空気が抜け出しているような――そんな感覚がある。

 (……なんだろう)

 何かがおかしいと断言できるほどではない。
 それでも、どうしても気になってしまう。

 「公爵夫人?」

 ルシアンに呼ばれ、シエラははっと顔を上げる。

 「あ、いえ。なんでもないです」

 結局、その正体は掴めないままだった。