神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 眠ったルシアンをアルバに任せ、三人は隣の応接室へ移った。
 テオドアとグランツが魔術について話している横で、シエラは紅茶と焼き菓子を楽しんでいた。
 中でも、たっぷりとクルミを練り込んだクッキーが気に入った。

 (これ、美味しい……!)

 もう一枚取ろうか迷っていると、隣から皿が差し出される。

 「えっ」

 見れば、テオドアが自分の分のクッキーまでシエラの前へ寄せていた。

 「いいですよ。旦那様が食べてください」
 「君の好物だろう」
 「でも……」
 「いいから」

 半ば押しつけられるように皿を受け取り、シエラは少し考える。

 「じゃあ、旦那様にはこっちをあげます!」

 残っていたブランデー入りの小さな焼き菓子をつまみ、そのままテオドアの口元へ差し出した。

 「これ、美味しいんですよ」

 テオドアがわずかに目を見開く。

 「……あとでもらう」
 「え?」
 「人前だ」

 そこでようやく、シエラも向かいに座るグランツの存在を思い出した。

 「あっ……」

 慌てて手を引っ込める。
 グランツはしばらく二人を見ていたが、やがて驚きと感慨の入り混じったような表情を浮かべた。

 「……テオドア。お前も随分変わったものだな」
 「何の話です」
 「いや」

 グランツは紅茶をひと口飲むと、口元をわずかに緩めた。

 「夫婦仲がよいのは結構なことだ」
 「えっ……」

 思いがけないことを言われ、シエラは目を瞬いた。

 (私たちは、形式だけの夫婦なのに……)

 そんなふうに見えるのだろうか。
 つられるように隣のテオドアを見ると、彼は何も言わず紅茶へ口をつけている。

 シエラはなんとなく落ち着かない気持ちのまま、自分もカップへ手を伸ばした。