神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 夜会から数日が経った午後、ミューゼル公爵邸に二人の客が訪れた。
 先日の夜会でシエラの施術を受けた宮廷魔術師長レオニス・グランツと、その後ろに続く一人の青年だった。

 玄関ホールでは、テオドアとシエラ、それからアルバが二人を出迎えていた。
 テオドアが、まずはグランツに丁重な挨拶をする。

 「わざわざお越しいただきありがとうございます、グランツ卿」
 「こちらこそ、急にすまない」
 「お邪魔するよ、テオドア」
 「ああ」

 青年が気安い調子で声をかけると、テオドアもごく自然に応じる。
 やがて青年の視線が、シエラへ移った。

 「こちらが、例の公爵夫人ですか」

 興味深そうに見つめられ、シエラはわずかに背筋を伸ばした。

 年の頃はテオドアと同じくらいだろうか。少しゆるくウェーブのかかった明るい茶髪に、女性なら思わず振り返りそうな華やかな顔立ち。
 肩からは、テオドア同様、宮廷魔術師が身につける黒いローブを羽織っている。

 「ルシアン・ヴァルモントです。宮廷魔術師をしています」
 「初めまして。シエラ・ミューゼルです」
 「グランツ卿から聞きました。先日の夜会で、公爵夫人に“へっどすぱ”なるものを受けたとか」
 「はい。あの……その後、お身体はいかがですか?」

 シエラがグランツに向かって心配そうに尋ねると、彼はゆっくりと頷いた。

 「驚くほど調子がいい。あれ以来、以前のような強い頭痛はほとんど出ていないし、夜も前より眠れるようになった」
 「本当ですか!」

 思わず声が弾んだ。
 夜会では確かに痛みが引いたと言っていたものの、それがどれほど続くのかまでは分からなかった。
 数日経った今も効果が残っていると知り、シエラはほっと胸を撫で下ろす。

 「それで、ルシアンも私と似た症状を抱えていてな。夫人さえよければ、一度こいつにも施術を頼みたい」

 グランツがそう言って、ルシアンへ視線を向ける。

 「もちろんです。私でお役に立てるなら」
 「そうか。助かる」

 宮廷魔術師長から直々に頼まれ、シエラは少し緊張しながらも頷いた。
 一通りの挨拶を終えると、グランツとルシアンはそれぞれ黒いローブを脱いだ。
 傍らに控えていたアルバが、慣れた手つきでそれらを受け取った。

 そのまま一行は、あらかじめ施術の準備を整えていた部屋へ移った。
 室内には、シエラがテオドアへ施術をするようになってから用意された、背もたれを深く倒せる一人掛けの椅子が置かれている。

 ルシアンはその椅子へ腰を下ろし、背もたれへ身体を預けた。