神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 グランツの頭へ、そっと両手を添える。
 触れた途端、指先へ強い張りが伝わってきた。

 (わ……すごい)

 殿堂入りしたテオドアを超えることはないが、それでも十分に硬い。
 頭皮全体が強く張り、指を押し返してくるようだった。
 こめかみから耳の周り、頭頂部へと指を移しながら、張りの強いところを少しずつ緩めていく。
 
 「かなり凝っていますね。特に左側……こちらに頭痛が出ることも多かったんじゃないですか?」
 「……まあな」
 
 最初こそ半信半疑だったグランツの表情も、時間が経つにつれて少しずつやわらいでいった。
 眉間に刻まれていた皺は薄れ、呼吸もゆっくりと深くなっていく。
 やがて重たそうに瞬きを繰り返したあと、その瞼が静かに閉じられた。

 (……よし)

 このままいけば、もうすぐ眠りへ落ちる。
 そう感じた、その時だった。
 指先に、ふっと妙な感触が触れた。

 (……あれ?)

 筋肉の張りとは違う。
 もっと深いところを流れている何かが、シエラの指先に触れた途端、かすかに動いた気がした。

 次いで、その流れが少しずつ滑らかになっていく。
 絡まり合っていた糸が、ひとつずつほどけていくように。

 「……っ」

 突然、グランツがかっと目を開いた。
 あまりの勢いに、シエラはびくりと肩を揺らして手を止める。
 
 「どうしました?」
 「待て。そこまででいい」
 「えっ? でも、もう少しで眠れそうですよ?」
 「だからだ」
 「?」

 意味が分からず、シエラは首を傾げた。
 グランツは身体を起こすと、何度か瞬きをする。
 それから、先ほどまで押さえていたこめかみに手を当てた。

 「……痛みが引いている」
 「本当ですか!?」

 シエラの顔がぱっと明るくなる。
 けれど、グランツはまだ何かを確かめるように眉を寄せていた。

 やがて右手を持ち上げると、その掌へ魔力を集める。淡い光が、すぐさま手の中へ集まった。

 「……それだけではない」

 グランツが、掌の光を凝視する。

 「魔力の流れが、いつもより滑らかだ」
 「……魔力が?」

 シエラは目を丸くした。
 そんな効果を狙った覚えはない。
 少しでも頭痛が和らぎ、眠れるようになればと思っただけだ。

 その横で、テオドアの眉がわずかに動いた。
 何かに思い当たったように、自分の右手へ視線を落とす。

 「……やはり」

 小さく零れた声に、シエラが振り返った。

 「旦那様?」

 けれど、テオドアは答えなかった。ただ、確かめるように自分の手を見つめている。
 グランツは掌を閉じると、まるで未知のものを見るようにシエラを見つめた。

 「君は今、私に何をした?」
 「何って……」

 シエラは戸惑う。

 「ただ普通に、ヘッドスパをしました……」

 それ以外に答えようがない。
 いつも通り、凝っているところを探して、丁寧にほぐしただけだ。

 (なんだか、旦那様に初めてヘッドスパをした時みたい……)
 
 あの時も、ただ眠ってもらっただけなのに、まるでとんでもないことをしたかのように驚かれた。
 そんな既視感を覚えるシエラとは対照的に、グランツは答えを聞いても納得した様子を見せなかった。

 「……ありえん」
 「え?」

 先ほどまで浮かんでいた疑いは、もうどこにもない。代わりにその瞳を占めていたのは、隠しきれない驚きだった。

 「これは、ただ頭を揉んだだけで起こる変化ではない」

 シエラの息が止まる。

 「君は――」

 グランツの鋭い眼差しが、真っ直ぐシエラを射抜いた。

 「一体、何者なんだ?」