神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 グランツが怪訝そうに眉を上げる。

 「君に?」
 「はい。不眠や頭痛でしたら、お役に立てるかもしれません」
 「医師や治癒魔術師にもどうにもできなかったものを、君が?」

 もっともな疑問だった。
 シエラは少しだけ表情を引き締める。

 「必ず治せるとは言えません」

 そう前置きしてから、まっすぐグランツを見た。

 「でも、少しでも楽にすることならできると思います」
 「……何をするんだ?」
 「ヘッドスパといいます」
 「へっど……?」

 (あ、またつい癖で)

 「こちらでは馴染みがないですよね。頭や首を、手でゆっくりほぐしていくんです」
 「そうしているうちに、気づけば眠ってしまいます。それを”寝落ち”と言います!」

 「寝落ち……? 頭を揉むだけで?」
 「はい!」
 
 グランツの眉間の皺が、さらに深くなった。

 「……悪いが、にわかには信じられんな」

 無理もない。
 この世界では、医術でも魔術でもないただの手技で不眠が和らぐなど、そう簡単に信じられる話ではない。
 どう説明すればいいのかとシエラが考えていると、不意に隣から声がした。

 「彼女の腕は、私が保証します」
 「……!」

 驚いて振り返ると、テオドアが一歩前へ出ていた。

 「私は彼女によって――初めて、睡眠というものを知りました」

 シエラは息を呑んだ。
 今なら、その言葉がどれほど重いものなのか分かる。
 幼い頃からまともに眠ることすらできなかったテオドアが、自分の施術によって初めて眠れたのだと、こうして人前で認めてくれている。

 グランツは何も言わず、改めてテオドアの姿を見つめた。
 その視線が、以前とは見違えるほど健康を取り戻した身体をゆっくりとなぞる。

 「……お前がそこまで言うなら」

 やがて、グランツはシエラへ向き直った。

 「分かった。任せてみよう」
 「本当ですか?」

 シエラの顔がぱっと明るくなる。
 
 「ああ。ただし、あまり時間は取れん。悪いが、効果がないと判断したらそこで終わりだ」
 「もちろんです!」

 グランツが長椅子へ身体を預けると、シエラはその頭側へ回り、施術の邪魔にならないよう袖口を整えた。

 不思議なことに、こうして相手の頭元へ立つと緊張はすっと消えていく。
 公爵であろうと、宮廷魔術師長であろうと関係ない。
 今、目の前にいるのは眠れず、痛みに苦しんでいるひとりの人だ。
 ならば、自分のやることはいつもと同じだった。

 シエラはにっこりと笑みを浮かべる。

 「それでは――極上の眠りをお届けします!」