神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 「なんて酷い……」
 「違うわ。私はあなたにそんなこと――」
 「ただ、お姉様が……」

 エリザは言葉を遮り、シエラのドレスへ視線を落とした。

 「そんな綺麗なドレスを着て、何もなかったように笑っている姿を見ると……少し、悲しくなってしまって」

 令嬢たちが顔を見合わせる。

 「エリザ様をあれだけ苦しめておいて……」
 「随分とお幸せそうですこと」

 責めるような声が重なった。
 その中のひとりが、手にしていたグラスへ視線を落とす。次いでシエラのドレスを見つめた唇に、意地の悪い笑みが浮かんだ。

 「……そんな方に、本当にそのドレスがお似合いかしら?」
 「――え?」

 意味を理解するより早く、令嬢がわざとらしく足をもつれさせた。

 「きゃっ」

 傾いたグラスから、色の濃い飲み物が勢いよく飛び出す。あまりに突然のことで、シエラには避ける暇もなかった。
 その瞬間――。
 
 パァンッ!
 乾いた音とともに、シエラの目前へ透き通った魔術障壁が現れた。
 飲み物はその表面へ激しくぶつかったものの、一滴たりともシエラには届かない。
 
 それだけではなかった。
 透明な障壁が水面のようにしなやかに歪み、弾かれた液体の軌道をそのまま反転させる。

 「きゃああっ!」

 次の瞬間、飲み物は令嬢本人へ勢いよく降りかかった。
 髪も顔もドレスも濡れ、甲高い悲鳴が大広間に響き渡る。
 何が起きたのか分からず、シエラが目の前の障壁を見つめていると、不意に肩へ腕が回った。

 「……っ!」

 そのまま強く引き寄せられ、背中が硬い胸元へ触れる。驚いて顔を上げたシエラは、すぐそばにある見慣れた顔に目を見開いた。

 「だ、旦那様……!」