神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 夜会の会場となる大広間は、すでに多くの貴族たちで賑わっていた。
 華やかな衣装に身を包んだ人々が行き交い、あちこちで楽しげな笑い声が弾んでいる。

 その中でも、ひときわ人目を引いていたのがエリザだった。
 淡い薔薇色のドレスには、胸元から裾へ流れるように繊細な金糸の刺繍が施されている。
 丁寧に整えられた亜麻色の髪と相まって、華やかな顔立ちをいっそう際立たせていた。

 そんなエリザの周囲には、いつものように数人の令嬢たちが集まっている。
 彼女たちはエリザを中心に輪を作り、楽しげに言葉を交わしていた。

 「そういえばエリザ様。今夜はお姉様もいらっしゃるんでしょう?」

 令嬢の一人に尋ねられ、エリザは満足げに微笑んだ。

 「ええ。旦那様とご一緒に」
 「旦那様って……あの“屍人公爵”?」

 別の令嬢が、声を潜めながら身を乗り出す。

 「一度見たら眠れなくなるほど恐ろしいお顔だとか」
 「まあ、どうかしら」

 エリザは扇子を広げ、口元を隠しながらくすりと笑った。

 「お姉様も、相変わらず?」
 「ええ、きっとね」
 
 何気ない調子で答えながら、エリザの脳裏には昔のシエラの姿が浮かんでいた。
 長い前髪で顔を隠し、誰とも目を合わせられずに俯くシエラ。
 その隣には、以前遠目に見た“屍人公爵”の姿が重なる。

 (どんな惨めな夫婦が現れるのかしら) 
 
 今夜もきっとシエラは、華やかな人々の中で居心地悪そうに小さくなっているはずだ。
 そこに“屍人公爵”が並び立ち、周囲からどんな目を向けられるのか。
 想像するだけで、愉快な気分になった。

 その時――。
 大広間の入口が、にわかにざわめいた。
 談笑していた人々が次々と口を閉ざし、一斉に扉の方へ顔を向ける。

 「ミューゼル公爵夫妻、ご到着――」

 従者の声が響いた。
 エリザは待ってましたとばかりに口元を吊り上げる。

 大扉が、ゆっくりと開かれていく。
 そこに現れた姿を見て、エリザは目を見開いた。