神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 テオドアの帰りを待ちながら、シエラは玄関ホールに立っていた。
 ほどなくして重い扉が開き、冷たい夜気とともに黒いローブを羽織ったテオドアが現れる。

 一定の足取りで歩くその姿を見つめているうちに、シエラの脳裏に、初めて彼を目にした日のことが蘇った。

 痩せ細った身体に、青白い顔。
 目の下には濃い隈が落ち、瞳にもほとんど生気がなかった。

 その異様な姿を畏れた人々は、彼をこう呼んだ。

 ――“屍人公爵”と。

 「旦那様、お帰りなさい」

 シエラが駆け寄ると、テオドアは足を止めた。

 「……ああ」

 そう返しながら、ローブの留め具へ手をかける。
 重い布が肩から滑り落ちると、傍らに控えていたアルバがすぐさま受け取った。

 シエラは、思わず息を呑んだ。

 すらりと伸びた長身には、まだ細さが残っている。けれど、もう病的に痩せ細った印象はない。
 頬や首元には少しずつ肉付きが戻り、まっすぐ伸びた背筋にも、以前にはなかった芯が感じられた。

 艶を取り戻した黒髪が、動きに合わせてさらりと揺れる。
 長い睫毛に縁取られた切れ長の瞳は、澄んだ深紫を帯びていた。
 すっと通った鼻梁に、端正な顔立ち。深い隈や青白さに隠されていた美貌が、今ははっきりと姿を現し始めている。

 あの“屍人公爵”の面影は、もうほとんど残っていない。
 長いあいだ疲労の影に覆い隠されていたものが、ようやく光の下へ姿を現したようだった。

 テオドアがシエラへ視線を向ける。
 その唇が、夜空に浮かぶ月のようなやわらかな弧を描いた。

 「――ただいま」

 テオドア・ミューゼル。
 目の眩むような美しさを放つ――私の旦那様。