神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 それから、シエラは毎晩テオドアの部屋を訪れるようになった。
 数日も経つ頃には、最初こそ渋っていたテオドアも、シエラが来ること自体にはすっかり慣れた様子だった。

 「……本当に、今夜もやるのか」

 そう言いながらも、テオドアはすでに寝台へ横になり、半ば諦めたようにシエラを見上げる。

 「もちろんです」
 「もう疑ってはいない」
 「それとこれとは別です」

 シエラは当然のように頭側へ座ると、施術の邪魔にならないよう袖を少しまくった。

 「眠れずに苦しんでいる人を前にして、何もしないなんて、私のポリシーに反しますから!」
 「……ぽりしー?」
 「あ」

 思わず前世の言葉が出てしまい、シエラは一瞬だけ固まった。

 「ええと……信条、みたいなものです」

 テオドアが小さく息を吐く。

 「変な女だな」
 「なんとでも言ってください」

 シエラは気にした様子もなく笑い、黒髪へ両手を伸ばした。

 「今夜も、極上の眠りをお届けしますね」
 
 その夜から、シエラがテオドアを眠らせることは、少しずつ二人の日常になっていった。
 仕事を終えて戻った夜には、当たり前のようにシエラが彼の頭へ手を伸ばした。

 「今日はここ、ずいぶん凝ってますね」
 「……仕事が立て込んだ」
 「では、いつもより念入りにしましょう」

 そんな夜を重ねるうちに、テオドアの側にも小さな変化が現れた。
 以前ならされるがままに受けていたはずなのに、ある夜、シエラが手を伸ばすと――

 「……頼む」

 初めてそう言われて、シエラは思わず手を止めた。

 「何だ」
 「いえ。なんでもありません」

 慌てて首を振ったものの、頬が緩むのは止められなかった。
 ほんの少し前まで、触れることさえ警戒されていたのに。
 今では、こうして当たり前のように自分へ身を預けてくれる。
 その変化が、シエラには素直に嬉しかった。
 
 そして、変わり始めたのは眠りだけではなかった。

 *

 「おはようございます、旦那様」

 朝食の席についていたシエラが声をかけると、食堂の前を通りかかったテオドアが足を止めた。

 「……おはよう」

 返事が返ってくる。
 ただそれだけのことなのに、シエラは思わず嬉しくなった。

 (おはようって返してくれるようになった。大きな進歩だわ)

 以前なら、こちらを一瞥して終わりだった。
 そんなことを考えていると、アルバがいつもの栄養補助食品を持ってテオドアのそばへ寄る。

 「旦那様」
 「ああ」

 テオドアは受け取りながら、シエラへ視線を向けた。

 「俺は仕事へ行く。君は自由に過ごすといい」

 そのまま立ち去ろうとする。

 「……待ってください!」