神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 その日の夕食時、シエラは落ち着かない気持ちで長い食卓についていた。
 向かい側には、テオドアがいる。

 (旦那様と夕食なんて……初めてだわ)

 結婚して半年になるというのに、こうして二人で食卓を囲むのはこれが初めてだった。
 これまでシエラは人目を避けるように、ほとんどの食事を自室で済ませていたのだ。

 何か話した方がいいのだろうか。
 けれど、いざとなると何を話せばいいのか分からない。
 
 迷っているあいだにも、テオドアは黙々と料理を口へ運んでいる。
 とはいえ、その量は驚くほど少なかった。

 「あの……お加減はいかがですか?」

 思い切って声をかけると、テオドアの手が止まった。

 「……アルバによれば、あれから数時間眠っていたらしい」

 まだ納得しきれていないのか、眉間には薄く皺が寄っている。
 それでも五日前より顔色がよく見えて、シエラはほっとした。

 「よかったです!」

 思わず笑うと、テオドアはなぜか視線を逸らした。

 「……それと」
 「はい?」
 「先日は、悪かった」

 シエラは目を瞬く。

 「話も聞かず、君を閉じ込めた」

 まさか謝られるとは思っていなかった。
 傍らに控えていたアルバまで、ほんの少し眉を上げている。
 シエラはしばらく呆気に取られていたが、やがて小さく笑った。

 「これから信じてもらえれば、それでいいです」

 テオドアの紫色の瞳が、僅かに見開かれる。

 「……そうか」

 それだけだった。
 けれど、以前なら交わされることさえなかった言葉が、今はちゃんと自分へ返ってくる。
 そのことが、シエラには少しだけ嬉しかった。

 しばらくして、テオドアは食器を置いた。

 シエラは思わず彼の皿へ目をやる。
 まだ料理の大半が残ったままだ。

 「もう召し上がらないんですか?」
 「ああ」

 それがいつものことだと言わんばかりの返事だった。
 すると、傍らに控えていたアルバが慣れた様子で小さな容器を差し出す。

 「それは?」

 「お食事があまり進まない時に、こちらで栄養を補っていただいているんです」

 テオドアは受け取ると、味わう様子もなく中身を飲み干した。

 「旦那様は以前から、あまり量を召し上がれませんので」

 シエラは残された料理と、向かいに座るテオドアを見比べる。
  不眠は、食欲にまで影響しているらしい。
 
 「君はゆっくりしていけ」

 テオドアはそれだけ言うと、席を立った。
 遠ざかっていく細い背中を見つめながら、シエラは膝の上で自分の両手を握る。

 (まずは、ちゃんと眠れるようにしてあげなくちゃ)

 ひと晩眠れただけでは、きっと足りない。
 これまで眠れなかった時間を少しずつ取り戻すように。
 何度だって、この手で。