神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 「奥様がおっしゃる“ヘッドスパ”という施術を、もう一度実演していただこうかと」
 「……なんだと?」

 ぎろりとテオドアに睨みつけられても、アルバは全く動じない。
 シエラはそこで、待ってましたとばかりに身を乗り出した。

 「もう一度旦那様を寝落ちさせることができたら、私の無実は証明されるんですよね?」
 「おい、勝手に話を――」
 「お願いします、旦那様」

 シエラはまっすぐテオドアを見つめた。
 テオドアも黙ったまま、その視線を受け止めている。
 
 やがて、根負けしたように小さく息を吐いた。

 「……一度だけだ」

 シエラの顔がぱっと明るくなる。

 「はい!」

 テオドアは諦めたように息を吐き、長椅子へ身体を横たえた。
 シエラはその頭側へ回り、黒髪へそっと両手を伸ばす。

 今度こそ、疑いようのない形で証明してみせる。

 「それでは旦那様――極上の眠りをお届けします」

 最初こそ警戒するように目を開けていたテオドアだったが、シエラがいつものように頭をほぐしていくうちに、その表情は少しずつ穏やかになっていった。
 眉間に残っていた皺が薄れ、張っていた肩からも力が抜けていく。

 やがて瞼がゆっくりと閉じられ、それから三十分も経たないうちに、規則正しい寝息が聞こえ始めた。

 テオドアが眠ったことを確認したシエラは、そっと手を離した。
 隣で見守っていたアルバが、ぱちぱちと小さく拍手する。

 「いやあ。本当に寝落としちゃいましたね」

 シエラは胸の前で両手を握り、ほっと息をついた。

 「……よかった」
 「ええ。疑って申し訳ありませんでした」

 アルバは眠るテオドアへ視線を移し、しばらく呼吸や顔色を確かめるように見つめていた。
 シエラがしたことといえば、本当に頭や首をほぐしただけだ。薬も道具も、もちろん魔術だって使っていない。

 やがてアルバは小さく頷く。

 「どうやら、奥様のおっしゃっていたことは本当のようですね」
 「じゃあ……」

 シエラが期待を込めて見上げると、アルバはいつもの柔らかな笑みを浮かべた。

 「旦那様にも、僕からお話ししておきます」
 「本当?」
 「ええ。これで、奥様をお部屋に留めておく理由もありませんから」

 その言葉に、シエラの表情がぱっと明るくなる。

 「ありがとう、アルバ!」

 心から礼を告げると、アルバは少しだけ目を細めた。

 そして、眠っているテオドアへ視線を移した。
 しばらくその寝顔を見つめたあと、ぽつりと呟く。

 「……これは、思っていた以上かもしれませんね」
 「え?」
 「いえ。こちらの話です」

 首を傾げるシエラに、アルバはにこりと笑うばかりだった。