神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 やがて辿り着いたのは、テオドアの執務室だった。
 扉がわずかに開いている。

 (いる……)

 隙間からそっと中を覗くと、テオドアは机の向こうで腕を組み、目を閉じていた。
 机の上には大量の書類が積まれているが、手は止まっている。

 (……寝てる?)

 「旦那様は起きてますよ」
 「わっ!」

 耳元で声がして、シエラはびくっと肩を跳ねさせた。
 振り返ると、いつの間に来たのか、アルバがすぐ後ろに立っている。

 「しー」

 アルバは口元へ人差し指を当てた。

 「旦那様がお気づきになります」

 シエラはまだ早鐘を打つ胸を押さえながら、こくこくと頷いた。
 アルバはそんな彼女を見て、どこか楽しそうに目を細めると、扉の隙間から執務室の中へ視線を戻した。

 「旦那様は眠れませんからね。ああして目を閉じて、少しでも身体を休ませていらっしゃるんです」
 「……眠ってないの?」
 「ええ」

 シエラはもう一度、室内を見る。

 目を閉じてはいるものの、眉間には薄く皺が寄っている。
 確かに、眠っている時とは表情がまるで違った。

 「奥様のお部屋を出られてからは、まともにお休みになれていませんから」

 アルバが何でもないことのように続ける。

 「もう五日になりますか」
 「五日……?」

 シエラは思わず息を呑んだ。
 あの夜以来、一度も。

 「そんな……」

 胸がざわつく。
 そんなシエラを、アルバは細めた目の奥からじっと観察するように見つめていた。

 「ところで奥様」
 「なに?」
 「先日は、どうやって旦那様を眠らせたんです?」
 「どうやってって……ヘッドスパをしただけよ」
 「ヘッド……?」

 アルバが首を傾げるのを見て、シエラは言い直した。

 「ええと、頭をほぐすマッサージのこと。本当にそれだけなの」
 「なるほど」

 アルバはすぐには答えなかった。
 いつものように笑っているのに、なぜかその視線だけは妙に鋭く感じられる。

 シエラが思わず姿勢を正したところで、アルバはようやく小さく頷いた。

 「……分かりました。では、こうしましょう」

 *

 「これは、どういう状況だ」

 低い声が執務室に響いた。

 長椅子へ座らされたテオドアの背後には、やる気満々で両手を構えるシエラ。
 そしてその隣には、なぜか涼しい顔をしたアルバが立っている。