神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 「もう五日……」

 窓辺で頬杖をつき、シエラは盛大なため息をついた。

 マリーと話せるようになったのは嬉しい。
 食事も運ばれてくるし、本も刺繍道具もある。退屈しないようにと、マリーなりに気遣ってくれていることも分かっていた。

 けれど。
 本当に、部屋から一歩も出してもらえない。

 『申し訳ございません。旦那様より、奥様にはお部屋にいていただくようにと……』

 初日に申し訳なさそうに告げてきたマリーの顔を思い出し、シエラはますます頬を膨らませた。

 (まさか、本当に五日間も閉じ込めるなんて)

 ヘッドスパをしただけなのに。
 しかも、あれだけ気持ちよさそうに眠っていたのに。

 「さすがに限界だわ」

 シエラは勢いよく椅子から立ち上がって、扉を睨む。

 (こうなったら、直接話すしかない)

 見張りらしい見張りがいるわけではない。
 マリーからも、くれぐれも出ないようにと言われているだけだ。

 (少しくらいなら……)

 シエラはそっと扉を開けた。

 廊下へ顔を覗かせ、右を見る。
 誰もいない。

 左も見る。
 やはり誰もいない。

 そろりと一歩を踏み出す。
 そのまま足音を忍ばせながら廊下を進んでいると、曲がり角から現れた若い使用人と鉢合わせた。

 「お、奥様……!?」
 「しー……っ」

 シエラは慌てて人差し指を唇へ当てる。
 何が起きているのか分からないまま、使用人も反射的に何度も頷いた。

 「お願い。見なかったことにして」
 「は、はい……」
 「ありがとう!」

 小声で礼を言い、また足早に先へ進む。
 残された使用人は、遠ざかっていくシエラの背中を呆然と見送っていた。

 「……奥様って、あんなに可愛らしい方だったのか……」

 もちろん、その呟きはシエラの耳には届かなかった。