神の手と呼ばれた私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~


 「……あれ?」
 「俺に何をした」

 笑顔がぴたりと固まる。

 「何って……ヘッドスパです。頭を中心にほぐしました」

 床に座ったまま、シエラは慌てて姿勢を正した。

 「……魔力調律を使ったのか?」
 「え? 使ってませんよ。そもそも私にはできません」

 それはテオドアも分かっていた。
 シエラの魔力量はごく僅かで、魔力調律の素質もない。昨夜も、彼女が魔術を使った気配など感じなかった。
 
 「とにかく、俺に何をしたのか、すべて話せ」
 「ですから、ヘッドスパです! ヘ・ッ・ド・ス・パ!」
 「その程度で、俺があれほど深く眠れるわけがない」

 まるで話が噛み合わない。
 テオドアは額へ手を当て、深く息を吐いた。

 「……話にならない」

 これ以上ここで問答を続けても埒が明かないと判断し、扉へ顔を向ける。

 「アルバ」
 「はい、旦那様」

 呼び終えるのとほとんど同時に返事があり、扉が開いた。
 まるで待ち構えていたかのような早さに、床へ座ったままのシエラが目を丸くしている。
 テオドアはそんな彼女を一瞥してから、アルバへ告げた。

 「今から、この女を部屋から一歩も出すな」
 「ええっ!?」
 「俺に何をしたのか白状するまでだ」
 「だから何もしてませんってば!」

 背後から抗議の声が飛んできたが、テオドアは取り合わなかった。
 そのまま部屋を出ようとしたところで、さらに大きな声が追いかけてくる。

 「あんなに可愛くスヤスヤ寝ていたじゃないですか!」

 足が止まった。
 隣にいたアルバまで、ほんの僅かに目を見開く。

 テオドアはゆっくりと振り返った。
 その表情を見た瞬間、先ほどまで勢いよく反論していたシエラの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
 
 「……いいか」

 自分でも驚くほど低い声が出た。

 「俺に何をしたのか話すまで、ここから出られると思うな」
 「え、ちょっと待ってくださ――」

 最後まで聞かず、テオドアは扉を閉めた。
 しばらくのあいだ、向こう側はしんと静まり返る。

 だが、数秒もしないうちに。

 「旦那様のためにやったのに……どうしてこうなるのよー!」

 シエラの嘆き声が、閉ざされた扉を突き抜けるように廊下まで響き渡った。