その翌日。
アーヴィンとグランツから、夜会で起きた事件について正式な処分が伝えられた。
エリザは、《モルティスの鏡》の欠片から作られた禁呪具を使用し、シエラへ直接呪いをかけた実行犯として魔力を封じられたうえで、王家の監督下にある修道院へ送られることとなった。
そこは規律が非常に厳しく、ひとたび送られれば生涯をそこで終えるとも噂される場所だという。
そして、呪いの跳ね返りによって老いたエリザの姿が、元に戻ることはなかった。
それはモルティスの鏡を使った代償として身体へ刻みついたもので、どんな治癒魔術や解除魔術を施しても、白く色褪せた髪も、深く刻まれた皺も消えなかったのだという。
美しさに何より執着していたエリザにとって、それは何より重い罰だったのかもしれない。
ベアトリスも共犯と認定され、カーティス家を追放。
実家からも受け入れを拒まれた彼女は、そのまま貴族社会から姿を消すことになった。
アルベルトは禁呪への直接的な関与こそ認められなかったものの、家長として責任を問われて爵位を返上し、カーティス伯爵家は事実上その歴史を終えた。
取り調べの結果、エリザが人目を忍んで違法な魔術具を扱う者たちを探し、自らモルティスの鏡を手に入れていたことも明らかになった。
しかし、エリザが利用したという店は、王家が調査に入った時にはすでにもぬけの殻になっていた。
店主の行方も分からず、王家が封印していたはずの鏡の欠片が、どのような経路で外へ流出したのかについては、今後も調査が続けられるという。
けれど、誰から手に入れたものであろうと、呪具を探し出し、シエラへ使うことを選んだのはエリザ自身だ。
ベアトリスもまた、そのためにシエラの髪を奪い、娘へ手を貸した。
その事実が変わることはない。
カーティス家がなくなったと聞いても、不思議と大きな感情は湧かなかった。
長い間、自分を縛り続けていたはずなのに、今となってはひどく遠い場所のように思える。
シエラにはもう、自分を待ち、「お帰りなさい」と迎えてくれる家がある。
(もう、あの家に縛られなくていいんだ)
そう思うと、心に残っていた最後の糸が、静かに切れた気がした。
シエラは窓の外へ目を向ける。
午後の光の中、見慣れた庭園が穏やかに広がっていた。
*
――そして、その日の夜。
シエラはテオドアの寝室を訪れていた。
昨日は目を覚ましたばかりだからと、テオドアが頑として施術を許してくれなかった。
けれど一晩休んだ今は、身体の重さもほとんど残っていない。
ベッドの端に腰掛けるテオドアの前で、シエラは腰へ手を当てた。
「ということで」
「……ということで?」
テオドアが訝しげに眉を寄せる。
シエラはそのままベッドへ乗り上げ、慣れたように彼の後ろへ回った。
「今日からは、しっかり睡眠をとっていただきますよ!」
三日間、ほとんど眠らずに自分のそばについていたのだ。
せっかく薄くなっていた目元の隈も、すっかり戻ってしまっている。
「昨日の分まで、今日はちゃんと寝てもらいますからね」
「しかし、まだ身体が」
「そう言われて昨日、我慢してたっぷり休みました。だから、今日はもう元気です!」
そう言って、シエラはぱっと両手を構える。
「さあ、旦那様。寝落ちの準備はよろしいですか?」
アーヴィンとグランツから、夜会で起きた事件について正式な処分が伝えられた。
エリザは、《モルティスの鏡》の欠片から作られた禁呪具を使用し、シエラへ直接呪いをかけた実行犯として魔力を封じられたうえで、王家の監督下にある修道院へ送られることとなった。
そこは規律が非常に厳しく、ひとたび送られれば生涯をそこで終えるとも噂される場所だという。
そして、呪いの跳ね返りによって老いたエリザの姿が、元に戻ることはなかった。
それはモルティスの鏡を使った代償として身体へ刻みついたもので、どんな治癒魔術や解除魔術を施しても、白く色褪せた髪も、深く刻まれた皺も消えなかったのだという。
美しさに何より執着していたエリザにとって、それは何より重い罰だったのかもしれない。
ベアトリスも共犯と認定され、カーティス家を追放。
実家からも受け入れを拒まれた彼女は、そのまま貴族社会から姿を消すことになった。
アルベルトは禁呪への直接的な関与こそ認められなかったものの、家長として責任を問われて爵位を返上し、カーティス伯爵家は事実上その歴史を終えた。
取り調べの結果、エリザが人目を忍んで違法な魔術具を扱う者たちを探し、自らモルティスの鏡を手に入れていたことも明らかになった。
しかし、エリザが利用したという店は、王家が調査に入った時にはすでにもぬけの殻になっていた。
店主の行方も分からず、王家が封印していたはずの鏡の欠片が、どのような経路で外へ流出したのかについては、今後も調査が続けられるという。
けれど、誰から手に入れたものであろうと、呪具を探し出し、シエラへ使うことを選んだのはエリザ自身だ。
ベアトリスもまた、そのためにシエラの髪を奪い、娘へ手を貸した。
その事実が変わることはない。
カーティス家がなくなったと聞いても、不思議と大きな感情は湧かなかった。
長い間、自分を縛り続けていたはずなのに、今となってはひどく遠い場所のように思える。
シエラにはもう、自分を待ち、「お帰りなさい」と迎えてくれる家がある。
(もう、あの家に縛られなくていいんだ)
そう思うと、心に残っていた最後の糸が、静かに切れた気がした。
シエラは窓の外へ目を向ける。
午後の光の中、見慣れた庭園が穏やかに広がっていた。
*
――そして、その日の夜。
シエラはテオドアの寝室を訪れていた。
昨日は目を覚ましたばかりだからと、テオドアが頑として施術を許してくれなかった。
けれど一晩休んだ今は、身体の重さもほとんど残っていない。
ベッドの端に腰掛けるテオドアの前で、シエラは腰へ手を当てた。
「ということで」
「……ということで?」
テオドアが訝しげに眉を寄せる。
シエラはそのままベッドへ乗り上げ、慣れたように彼の後ろへ回った。
「今日からは、しっかり睡眠をとっていただきますよ!」
三日間、ほとんど眠らずに自分のそばについていたのだ。
せっかく薄くなっていた目元の隈も、すっかり戻ってしまっている。
「昨日の分まで、今日はちゃんと寝てもらいますからね」
「しかし、まだ身体が」
「そう言われて昨日、我慢してたっぷり休みました。だから、今日はもう元気です!」
そう言って、シエラはぱっと両手を構える。
「さあ、旦那様。寝落ちの準備はよろしいですか?」


