神の手を持つ私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~

 閉じた瞼の向こうに、柔らかな光が滲んでいた。

 重たい瞼をゆっくりと持ち上げると、ぼんやりとした視界の向こうに見慣れた天井があった。
 何度か瞬きを繰り返すうち、自分の部屋だと気づく。

 (……ここ……)
 
 身体には重い疲労が残り、頭にはまだ薄い靄がかかっていた。
 掠れた声を漏らしながら、シエラはゆっくりと顔を横へ向け――そこで、目を止めた。
 
 ベッドのすぐ脇に置かれた椅子に、テオドアが座っていた。
 背もたれへ身体を預け、腕を組んだまま目を閉じている。いつもなら隙ひとつない彼には珍しい、ひどく無防備な姿だった。

 どうして自分の部屋に。訝しんだ瞬間、途切れていた記憶が少しずつ蘇ってきた。
 華やかな夜会で突然暴れ出した呪具。エリザによってかけられた呪いで身体が急激に老い、ついには魂まで肉体から引き剥がされてしまったこと。
 そして何より、消えかけていた自分を必死に繋ぎ止めてくれたテオドアの姿が、鮮明に脳裏へ浮かんだ。

 「……旦那様?」

 喉が乾いているせいか、呼びかけは思ったよりも小さなものになった。
 それでもテオドアはすぐに反応し、はっと目を開ける。

 「――シエラ?」

 テオドアは、まるで目の前の光景を信じられないかのように、何も言わずシエラを見つめていた。

 「……旦那様」

 もう一度呼ぶと、張り詰めていたものがほどけたように、紫の瞳が僅かに揺れる。
 その表情は、今にも泣きそうにも見えた。
 けれど次の瞬間には、ほんの少しだけ口元を緩める。

 「……よかった」

 その声はひどく掠れていた。
 あまりにも切実な響きに、シエラは目を瞬く。

 「え……」

 けれど、安堵したのも束の間だったらしい。テオドアはすぐに椅子から身を乗り出し、シエラの顔色を確かめるように覗き込んだ。

 「どこか痛むところは?」
 「え?」
 「息苦しくはないか。身体に違和感は?」
 「え、えっと……」
 「頭痛は? 気分が悪いところはないか?」
 
 矢継ぎ早に問いかけられ、シエラは完全に目を丸くした。
 
 「だ、旦那様、ちょっと待ってください……!」

 シエラが困ったように声を上げると、テオドアはそこでようやく口を閉じた。
 まだ混乱したまま、シエラは自分の身体を確かめるように見下ろした。
 
 「私……どうして……」
 
 最後に覚えているのは、騒ぎの収まった夜会場だった。
 エリザたちが連れていかれ、テオドアと、満身創痍のまま笑い合った。
 けれど、それよりあとの記憶だけが、ぷつりと途切れていた。

 その時、控えめなノックの音が響く。